運命 | ナノ





数秒の沈黙の後に涯さんが口を開いた。


「まだ気付かないのか?」

「…へ?」


涯さんが何を言ってるのか分からないのと唐突に話しかけられた事により変な声が出てしまった。僕が首を傾げていると、涯さんは溜息をつきつつ丁寧に説明を始めた



「お前は今どんな格好だ?」

「見れば分かるでしょ」

「女物の服を着ているか?」

「着るわけないだろ!僕は男だ…、あ!なんで僕が分かるの?」



涯さんと会ったのは女装した僕だったのを今更ながらに思いだした。何故、女装もしてない僕の事が分かるんだ…?おかしいじゃないかっ!


理由を考える。そもそも舞踏会に行けたのは奇妙な二人組のおかげで…、なのに涯さんは確か【話してみたかった】と舞踏会で僕に言った。つまり…これって…っ!

僕は一つの結論を呟く



「もしかして…、最初から全部…!」

「俺が仕組んだことだ」

「何故わざわざ僕を!?」



家に軟禁されている僕は勿論彼と会った事なんて一度もない。なのに彼は僕を舞踏会に呼び寄せた。わざわざ回りくどい方法を幾つも使用して僕を呼ぶ理由が分からなかった


僕が一人で唸っていると涯さんの方から懇切丁寧な説明が発せられた



「俺は集を知っていた。数ヶ月前、俺が屋敷を抜け出し外を歩いていた時に見つけた。…悲しそうな目で空を見つめていた集に、俺は――…」

「…何?」



途中で言葉を止めた涯さんに気になり僕は立ちあがって涯さんの目の前に立つ。すると以前と同じように腕を引っ張られて、胸板に顔を押し付けられて、耳元で前と全く同じように囁かれる。



「俺は、お前が好きだ。」



どんな顔をして涯さんが言ってるのか分からないけど、それよりも嬉しさで胸がいっぱいで。止まる事の知らない涙が流れる。涯さんの声が優しく低く甘い声で聴覚まで犯していく。

僕は、ぐちゃぐちゃの泣き顔のまま言った



「僕も、好きです。」



僕が顔を上げて言うと後頭部を掴まれて、目の前に涯さんの顔があった。文字通り目の前に。唇には暖かい物が触れていて、僕はそれを受け入れる。

暖かくて優しい、そんな僕の初めてのキスだった。





運命なんて信じたこと無かったけど…、これは運命だって信じてもいいかな…?