恐怖 | ナノ





果たして僕なんかが一国の王子様と話していていいのかという疑問は残ったが、なんとなくだけど少しでも一緒に居たいと思い自分から話題を振ってみる。



「その…、今日は私を招いて頂き有難う御座います」

「気にしないでください。貴女とは、お話してみたかった」

「え…っ!?」



何故、僕と話してみたかったんだろう?という疑問は残りはしたもののメイド服着た変人と話してみたかったのかなと自分なりにポジティブに考えて…、いや、やっぱ恥ずかしい。

そんな事を考えてしまっていると顔がどんどんと熱くなっていった。



「集さん?顔が赤いですよ?」



僕が一人でパニックを起こしていると、目の前の涯さんに手を添えられた。涯さんの手は冷たく気持ちよかったが余計にパニックになってしまい、僕は必至に声を文字通りに絞り出した



「いいいいえ!大丈夫です、失礼しましゅ!」



最後の部分が噛んでしまって、何やってるんだ自分と怒鳴りたくなった。思考回路がぐちゃぐちゃに壊れてしまっている今、僕は添えられた涯さんの手を振り払って、その場を離れようとした。

何故こんなに焦っているのかは自分じゃあよく分からなかった。僕は人とコミニュケーションを取るのがそんなに苦手と言う訳でもないのに、涯さんだけは何もかもうまく行かなかった。



「っ、失礼します!」



そう言って、もう帰ろうと思った。

が、それは叶わなかった。



「勝手に行くな、命令だ。」



じわり、と体から嫌な汗が噴き出る。

先程までとは打って変わって甘く低く威圧感のある声がした。腕を引っ張られて耳元に顔を寄せてくる。美しい金色が視界を覆う。

涯さんは耳元で囁く



「集」

「…っ!」



名前を呼ばれただけなのに金縛りにあったように体が動かなくなった。周りの音は全て遮断されたように聞こえなくなってしまった。涯さんの声は僕の冷え切った心をを壊して行くように続けて囁く。



「何故逃げる?」

「お前は家に居たいのか?」

「なぁ、集…?」



再び名前を呼ばれると体の芯が熱くなっていくような気がした。今までに感じた事のない変な気持ちだった。僕は、もうどうしていいか分からずに必死で声を出す



「涯…さんっ…?」

「―――――。集。」

「……っ!」



囁かれた言葉に僕は危険を感じて残る力全て使って涯さんを押しのけた。そしてそのまま先程登って来たばかりの長い長い階段を降りて行った。






階段を必死で慣れないヒールで降りて行くと、今しがた囁かれた言葉が頭の中で何度も何度も繰り返し頭の中で囁かれていて、僕は先程から感じていた変な違和感の正体に気付いてしまう。


僕は、涯さんに、恋をしてしまった。

恋なんて今までしたこと無くて変な気持ちで胸がいっぱいになってしまって、僕は恐怖を感じてしまった。


恋を恐怖だと思ってしまった自分が居た。