「いーちーまーつーひーまーだーよー」

「うるさい」


 ごろごろと寝転びながら足をばたつかせる私を一瞥してぴしゃりと言い放ったこの男は私の彼氏で、巷ではちょっとした有名人。その名も松野一松。松野家の四男であり、六つ子である。そんな彼は今、私の飼い猫モカさんを撫で繰り回し、彼女である私など放置してひたすらにモカさんに愛を送っている。

 一方の私といえば、特にすることもなく自分のベッドでごろごろと無意味にローリングしては足をばたつかせ、一向に私に構う気配などない彼氏に暇コールを送っているところだ。


「ねえ、モカさんは確かに天使だし可愛いし愛くるしいけど、ここにあなたの大好きな彼女が暇だ暇だと喚いているんですけど。それに関してはガン無視なんですか。無視を決め込むんですか。そうですか」


 なんということでしょう。可愛い彼女がここまで言っているのに、この男はついに無視という強行に出始めた。まったくもって遺憾の意である。モカさんはそんな私のことなどつゆ知らず、ごろごろとのどを鳴らして一松を独り占めしている。


「…ねえ、寂しいんですけど」

 私だって構ってほしい。自分の飼い猫だし、大好きだし、なんだったら愛してるけど、でもむくむくとわきあがる私の嫉妬心は今確実に自分の飼い猫、モカさんに向き始めている。足をばたつかせるのをやめて枕に顔を埋めつつ小さい声でそういうと、一松が動いた気配がして枕から顔を上げた。


「なに、自分の飼い猫に嫉妬してるの」

「…一松がかまってくれないのがわるい。モカさんは悪くないもん」

「そりゃ失礼」

 モカさんから手を離した一松は、ゆっくりと立ち上がって私のベッドに向かってくる。そして、寝転がる私の横に腰掛けると、さっきモカさんを撫でていたように私の頭を撫で始めた。その手が気持ちよくて静かに目を閉じるけど、モカさんと扱いが一緒なことがなんだか気に食わない。


「…私モカさんじゃないんですけど」

「そりゃ失礼」

「……ふん、もういいもん」


 くっ、とのどを鳴らすように笑った一松。私の気持ちなんてとうに見透かしているようなその態度に恥ずかしいやらむかつくやらでまた枕に顔を埋める。そうすると、今度は撫でていた手を止めて私の横にぼふりと寝転がってきた。そして枕に顔を埋める私を抱き寄せる。


「モカさんにはこんなことしないけど」

「…知ってる」

「“俺の大好きな彼女”だからこんなことしてるんだけど」


 ばかじゃないの。さっき私が自分で言った言葉を真似して、ちょっとからかうみたいにして一松がいうからなんだか恥ずかしくて心の中で毒づいた。それを知ってか知らずか、一松の腕の力が少しだけ強まった。


「…なまえ、こっち向いて」

「…いや」

「はやく。じゃないとちゅーできない」

 なにいってんだこのねこ大好きやろう。そう思いながらも、やさしくて甘ったるいいつもの一松の声じゃない声につられて一松のほうを向くと、「顔、あかい」と楽しげにいうもんだからむかついて腰あたりを軽く殴った。そしたらまた楽しそうに笑うもんだから、ドM、といってやろうとしてその声は一松の唇に飲み込まれた。
 しばらく重なっていた唇が少し離れて、またくっついて、そして私の唇を割って一松の舌が入ってくる。その熱い舌に翻弄されながらキスの気持ちよさに酔いしれてると、にゃあ、と愛くるしいモカさんの声が聞こえてきて唇が離れた。

 声をしたほうに目を向けると、私と一松の足元にモカさんがいて。お行儀よく座って私たちをみつめるモカさんに思わず笑みが漏れた。


「おいでモカさん。一緒にお昼寝しよ」


 そういうと、モカさんはまたにゃあ、と鳴いて私たちの間に入り込み体を丸くして目を閉じた。私と一松は顔を合わせたあとちょっとだけ笑って目を閉じたのだった。


構ってちゃんとねこの話
(できればずっとこのままで)

#11/18/15