見知った世界の他にひとつ、小さな、健気な窓を持って現れる。見知らぬ物事・香り・思考のはしくれ。ことばを交わすたび新しく僕にくれるそれらを、最初のうちはかなり持て余していたものだ。とはいえ今となったって、驚かされる事ばかりであるのだが。
小顔にのせた赤い唇は少し開いて、息を吐く、吸う、吐く。僕がこの胸に抱く寝息。子どものような、それでも随分そそられる体つきを僕の手が撫でる。眠る人。なんの不安もおぼえちゃいない、それは羨ましいほどに。今君は夢の中の人。


僕の狡さを、後ろめたさを、心の薄暗さを、君はみとめて、愛してくれるか、ゆるしてくれるか。僕は君にとって新世界の窓になり得るか、君が僕にとってそうあるように。僕には、君が与えてくれる千を同じ様に返せるとはとても思えないのだ。それでも、離れずにいてくれるか、僕は傲慢だろうか。
不安をほどく術を教えてくれ。


劣情か。
僕のよくない欲が君をよごして、なんの善もなんの美もなく、君の事をただただよごしてしまう、僕の悪ばかりが君をねだっている。
愛してもいいのか。
君がくれる事などはなからわかっていてそれでも僕は君を愛してもいいのか。



滑らかな肉体、その肌に、触れて、行きつ戻りつ、なぞっていって、君が目を覚ますのをもうずっと待っている。その反面二度とその目を開けなくてよいのだ、とも。君が一切を従順にしてくれるかわりに一体この僕はなにをしてやれるだろう。
僕にはほどけぬ救いようのない混乱した思考をとめるのに、まだまだ睡眠は遠くにいるようだ。目も眩む。君がまぶしい。混濁。云々。





夢の奈落へ 




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