触れられては弱い。今まで深奥にためこんできた欲望もそれで全て弾けてしまう、それ以上をもっと、そういう風に求めてたった今ではもう既に物足りなくなってしまう。たとえばその理性の途切れるきっかけになるような接触が、自ら望んだものでなく偶然に起きたものだとしたら尚更に。

互いの奥深くを探る、手を重ねたなら次には指を絡ませる、抱き締めるのなら強く、見つめあうなら口づけを、そうして段階を踏んで執り行われるべき行為を。




廊下の曲がり角で鉢合わせたのだった。お互い避けきれずに小娘の花車なからだが私の懐へと飛び込んで来て、私はそれに覆いかぶさるように前のめりになる。反射で、押し倒してしまわぬように腕が小娘の背中を支えた、ちょうど抱くようなかたちだった。状況を理解するための間を一瞬おいて、動揺した小娘がもがく。

「すいませ…、ちょっと、あのっ」

けれども解かれぬ拘束に困惑してか不安げな声音。鼻腔をくすぐる小娘特有の香り、支える腕に力を込めれば柔らかな感触が返ってくる。これは半ば衝動的な行動だった。小娘の初心さに私も相当焦らされているのだと、頭の隅で考えた、苦笑交じりに。


離してくださいと騒ぐ小娘の細い手首をつかまえる、それから壁に押しつける、花車なからだを見下ろすように自らのからだでを重ねる。思いの外密着していた、互いの呼吸が普段より早いのがよくわかる、そうして肌が熱を持ち始めていることも。

小娘の黒目がちの眼をじっと見据える、潤み、かつ揺れる瞳。それを襲う不安の中に、かすかに紛れているのは―――。



「なぜ目を逸らす?私を見ろ、小娘」

ふ、と息で笑えば小娘はそっぽを向いてしまう、赤く染まった頬を見せまいとして。けれども耳までその熱に侵されているせいで顔をどう隠そうにも意味がない。それを見て私はもう一度微笑を漏らした。


「離してくださいっ……」

「聞けぬ相談だな。大人しく私に従え」


そう、ただ大人しくこちらを向きさえすれば良いのだ。そうしたら目一杯の愛撫をくれてやるのに。こうして敢えて乱暴な手段を用いずに小娘の方からねだるのを待つ、それはただの意地悪ではなかった。自らの激情に身を委ねこんなか弱い小娘の口びるを攫うことなど容易いことなのだ、けれどもそうしないのは、先ほど覗き込んだ小娘の瞳の中に私の持つのと同じ欲望が、期待が、ほんの一瞬見えたからだった。

触れられては弱い。そうしてそこを源として次々に生ずる欲望。けれどもその切々とした想いが自分だけにあるものではないのだ、健全な、或いは健全すぎるほどの小娘にも間違いなく芽生えている欲だった。そういう事が、もう全てわかってしまった。



「あまり反抗すると痛い目に合うぞ」

躾けて欲しいというなら別だがな、付け足した一言に自分の咽喉が陽気に鳴るのを感じた。小娘は依然赤い顔背けたまま、それでも時折その口びるはぴくと震える。けれどもそれも次にはまた一文字に結ばれてしまうのだが。小娘に注がれる私の視線、一瞬も逸らされはしない、それはこの小娘の根負けするのをしかと見届けようとしてのもの。

初心な恥じらいの奥を暴いてやらねば、そうやっておまえは揺れる瞳よりもっと良い目つきを知るべきだ。持ち前の愛らしい口びるを割って縋るなら上出来、そうでなくても次に眼が合ったなら、私はおまえの内にあるかすかな期待にそれ以上のないほど応えてやる―――そうしないならずっとお預けのまま、生まれくる欲望をどれも叶えられずにもてあます以外にはない。


「あまり焦らしてくれるなよ」、私とて眼前の美味そうな餌を何度も取り逃がすのは御免被りたいところなのだ。




飢えるがよろしい 




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