ネクタイのむらさきが目の奥にじわりと染みた、それからその色は次第に刺に変わってしまってわたしの内側の至るところをつつくのだ。むず痒く、それでいて確実にわたしを襲う、心臓のあたりがずっときりきりと鳴っている。


先生はてのひらの真ん中にこもる熱をご存知ですか。それは侵食するようにからだ中に広がってゆく、熱はただ倦怠感をはびこらせ、健やかで正常な感覚を放棄させる。そうしてわたしの神経は、指尖まで睫まで、さらにはからだの末端をも超えて、着ている堅苦しい制服やまとう空気にすら行き渡る。
わたしは時折足の裏の感覚に意識をやって、ちゃんと地に着いていることを確かめる、踏み出す一歩一歩がしっかりと平らな床の上で繰り返されていることを確かめる。ねえ、先生、空中を歩くような浮遊感をご存知ですか。






「先生はキスがお好きですね」

今日で三つ目の口びるを受けながら、そっと呟いた。くらりと霞んだままの目が優しく笑む先生の表情をとらえる。


「君の口びるがあんまり柔いからいけないんだろう?」

わたしの口振りを真似て先生もそっと呟く。その科白はわたしの胸の中の疼きをいっそうひどくさせた。




ねえ先生わたしは知っています、わたしのからだをおかしくするもの、そうしてそれを生じさせる根源を、なんと呼んだら良いのかを。先生は、いいえ先生なら、きっとご存知なんでしょう。





「ほら目を閉じて」

先生の指尖がわたしのまぶたに触れて、四度目五度目のキスを重ねる。それからやっと放された口びるの、薄く濡れた表面に冴えきった神経が通っている、それが甘い痛みを感ずるのは恐らくぱちぱちと弾けるような余韻のせいだった。



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