からだの中心は今何度くらいだろう。水の沸点くらいならもうとうに超えているような感覚だった。その癖指の先はびっくりする位冷たい。緊張して声が出ない、身動きひとつ出来ない。それはなぜか。答えなら知れている、桂先生の右手がスカートの下を潜ってわたしの左足の付け根に添えられているからだ。




いつものように準備室に入って言われたように椅子に座ると―――もっとも今日は先生の招待を受けたのだけれど―――、先生はそれはもう丁寧にわたしに謝罪した。晋作がすまなかったね、あいつにはよく言い聞かせて置いたから……、等々。


「全くあいつが次に何をやり始めるかと思うと気の休まる暇がないよ」

「あえっと、でも、高杉先生は良いひとだと思います…」


桂先生があまり高杉先生の悪口を言ってため息を吐くから、なんとなく高杉先生を庇うような科白が出てしまう。すると桂先生は一瞬驚いた顔をして眉を顰めた。そして、へえ、と呟く。


「驚いたな。襲われかけていた癖にあいつの肩を持つのかい」

そういうつもりじゃない、とわたしは否定しようとする。けれどもその前に桂先生がわたしにずいと近寄ってきた。


「……そういえば随分顔が近かったね、これ位だったかな」


先生の右手がわたしの頬を撫でて、手は顎だったねと言いながら指尖をずらす。さっきの高杉先生の時と同じような距離で、わたしの目の前には桂先生の黒い目が綺麗に並んでいた。先生がキスするみたいに首を傾げる。口びるの距離はきっと1センチもなく、その格好のまま先生は喋り続ける。


「こんな近くで、一体何をされたんだい?」

「な、何って…」

「言ってごらん、他にどこを触られた?」



先生の右手がわたしの顎を離れ、それでも指の先は肌に触れたまま咽喉のあたりまで滑ってゆく。そうして制服越しのわたしの体の線をなぞりながら、さらに下へと下る。

鎖骨を超えるとそれは軌道を変えて、わたしの左胸を辿った。そして頂点で動きを止めて少しつついてから、指尖でなく手のひらで覆ってしまう。


「せん、せい……」

これを一体どうしたらいいのか。触れられた所から生ずる痺れに困惑して縋るように先生を呼ぶと、依然わたしの目を見つめながら、なあに、と息だけで言った。言ってごらんと言うけれど多分先生はわたしと高杉先生との間に何も無かった事を知っている。意地悪だ、このひとは、本当は全然優しくなんかないのだ。



手の滑降は止まらず、わたしのくびれを、腰骨を経由して大腿に辿り着く。スカートの端で止まったかと思うと、そのてのひらは来た道を引き返した。それも、衣の下をだ。

するするとわたしの地肌をゆく。紺のプリーツの下で蠢く手。そうして行き止まりの壁で止まって、わたしの大腿の付け根にその手をあてがう。

その先がどうなるかなんてすっかり茹だった頭ではもう何も考えられなかった。




「目が潤んでるね、君、泣くのかい?」


だって、だって先生。口の中でくぐもる言葉を情けなく思いながらも、視線を先生の目から逸らすことが出来ないでいる。

泣いたらいいよ、きみの泣き顔にも興味がある。先生がわたしの口びるを啄むように触れて、所有する低い声と独特の微笑みをしながらそう言った。




正直に言えば、自分の下腹部の甘い疼きには気づいていた。だから早く先生から離れたくて仕方がなかった。その疼きが深く根付いてしまうのが怖かった、自分の体の熱が恥ずかしかったのだ。けれど離れようにももう片方の手でしっかり拘束されてそれは叶わない。



「それとも期待しているのかな」

ふふ、と先生が息を漏らして笑う。わたしのことを全て見透かすその視線。


「ねえ、言ってごらん。何をして欲しい、どこを触って欲しい?」

「そんな、………あっ」


先生の指が一本、ずるりと下着の中へ侵入した。その布が阻むのも構わずに奥へと進む、引っ掛かるその手に頼りない布きれが引き上がって、締め付ける。そういう刺激、その瞬間に、ずっとずっと堪えていた呼吸が漏れてしまう。



「ほら、息が邪魔になる前に言っておしまいなさい」


体温がもう狂ってしまっている、もう言う事を聞きやしない体。熱を抑えようにもじわじわと生まれ沸くそれに髄までやられている。どくどくと流れる血液と早鐘みたいな鼓動が騒々しくわたし自身を責め立てて―――指の先を含めた体中が、もう熱くてたまらない。

口の端を先生の舌が舐めた。きっとわたしがねだるまで甘い核心をさらってくれる気はない、ねえ先生、あなたはなんて意地悪。



 臓器が沸騰する



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