この状況を誰か説明してくれ。今おれは押し倒されている、そういう体勢だった。正確に言えばおれはただ眠りから覚めただけで、この男が勝手に覆い被さっていたのだ。あの綺麗にそろった双眼がおれを見下ろしている、この男、確かおれの友人ではなかったか?


「……小五郎、何をしている?」

「見ての通りだ。おまえを襲っている」

「くだらん、そこを退け」


部屋は薄暗くこいつが今どんな表情をしているかはよくわからない、けれど想像するには、いつも通りのこころ内を読ませない微笑みがそこにあった。おれの一言に、小五郎の影が僅かにその肩をすくめる。それでも言った通りにそこを退こうとはしない。



「くだらない、か?」

そう呟いて小五郎は身を屈める。一瞬なにか外の光に反射してそいつの瞳がきらめいた、そしてすぐ消える。ふいに髪を撫でられ、その手付きがいやに優しいのに驚いた。晋作、おれのなまえをいつもより低い声で呼ぶ。聞かない声音だった、日中おれをたしなめるときのものではない、もっと色を帯びたもの。そしてその息遣いが鼻の先に感じられた、―――こいつは今、おれに口吸いをしようとしている。



「おい待て、小五郎!」

おれの尖った声が響くのと同時に、小五郎の動作がぴたりと止んだ。それを意外に思いながらもやはりほっとした。
けれどいくらおれの上から撤退するの待っても、そいつは一向にそうしない。焦るのをどうにか抑えようと、大きく息を吐いた。


「冗談はもうよせ」

そこを退け、もう一度そう言ってみるものの。

「ここを退く気はない、だがおまえが待てと言うなら私は待とう」


額のあたりの髪を梳いていた手が、耳元へと下った。しっとりとした手付きで耳の縁をなぞられ、その感触に背中が震えてしまう。全然待っていないじゃないか、そう文句を言うよりはやく小五郎が口を開く。



「"待て"と言うからには"よし"と続くはずだろう?」


眼が再び光ったのは外の光のせいではないのだ。小五郎が喋る度に吐息が自らの口びるを掠めてゆく、額にいやな汗のにじんでいるのがよくわかる。

おそらくそいつはいつもの笑み、左右対象な口の端で、眼を少しだけ細める、あの笑み。
おれはただ焦っていた、けれども不思議とそこに嫌悪はなかった。小五郎がおれに覆い被さっていることより、戸惑ってはいるがそれを嫌だと感じていないおれに違和感を覚える。ああもう口びるを許してしまおうか?けれどもそれだけで終わるはずがない、そうするということはその先のことも承諾するのと同じじゃないか。



「ほら晋作、言ってみろ、"よし"だ」


ああ何だと言うのだ、これは?一体どうしてこんなことに?小五郎のあの綺麗にそろった双眼がただおれを見下ろしている、この男、確かおれの友人ではなかったか?



 みしらぬ事態



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