そろりと寄越した眼を食べてしまいたいと思った。しとやかに濡れる瞳を、この口内に含んで舌で撫でて咀嚼する、この美味そうな眼、愛して止まぬ女の眼。





夕餉を終えてからふいに奈々がおれの部屋を訪れた。それは今まであまりない事だったから、どうしたと尋ねる。すると奈々は高杉さんとお話がしたくて、とはにかみながら返事をした。


「おれの女はなかなか寂しがり屋らしいな」そう言ってからかえばいつも通りの答えが返ってくる、「わたしは高杉さんの女じゃないです」。
そんな応酬を終えれば二人で顔を見合わせて笑う。奈々の表情が眩しいくらいにくるくる回るのを、おれはただ楽しんだ。


そうして会話は途切れる事なく続いて、真夜中が迫る頃、奈々が小さなあくびをした。それを機会として立ち上がる奈々。わたし、そろそろ部屋に戻りますねと、おれに微笑みかける―――その時の眼に、おれの意識は全て攫われてしまったのだ。

奈々が振り返る寸前に、おれの手が奈々の手首をつかむ。そうして、抵抗のないうちに腕の中へ引き寄せた。


「おまえの部屋はここだろう?」


高杉さん、と上目がちにおれを呼ぶから、半ば衝動的にそのまぶたに口づけた。濃密に茂る睫が口びるに柔く刺さる。そして何度かそれを繰り返せば口びるの下の女がくすくすと笑い出した。


「……高杉さん、くすぐったい」

「こら、動くな」


強い視線を注ぐ、そうすれば奈々はたちまち固まってしまうことを知っている。どうやらおれの思惑に気づいたようで、真面目な顔に戻るのを、今度はおれが笑い出さないようにじっと眺めた。


高杉さん、といやに強張った声音。それを発音するところを、無理やり塞いでしまう。口びるをもぎ取るような乱暴さの途中、奈々の吐息が次第に荒くなるのにおれは満足する。今感じる全てが甘く愛おしい。そしておそらくこの奥も一層。




「おまえがあんまり可愛いから」


おまえがあんまり可愛いから。内心に呟いた科白を繰り返した。おれの愛して止まぬ女。たとえこの身を捧げても惜しいなどとは思わない、おれの女、おれの可愛い奈々。ああ鴉くらいで良いなら何匹でもこの手で殺してやる。それからおれはおまえの目玉を舐めて、口びるを貪って、咽を噛んで、そうして。


おまえが、あんまり可愛いから。


「……全部食ってしまいたくなる」




ゆっくりと口を開けば奈々が微笑んで目を閉じた。「可愛い八重歯」、囁いてわずかに震えるその咽もとに、おれは照準を定めた。



 




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