入浴を終えた彼女は、僕の順が来たことを知らせに来た。適当に返事をして振り返れば、目が合って微笑まれる。いつもの口調で礼を言う僕。「いえ、それじゃあ」、そう答えて戻ろうとする彼女。

そして、その彼女の、風呂上がりの火照った項が目に入った。それに僕ははっとする。
濡れた髪を結いあげ、惜しみもなく曝される肌と髪の境い目から、衣服で隠されるまでのひとつづきの肌。
おそらくそれは熱く湿っている。撫でれば指尖に吸いつくようで、そこから咽喉に手をやれば、皮膚下にある骨の、連続する小さな曲線に行きつく。次いで波打つ脈に触れ、顎に手をかけると、やや膨らんだ下口びるが現れる…………。



彼女が去った後も僕はぼう然とその影を見ていた。目を離せなかった。残された石鹸の香りが鼻を擽る。
触ってもないのになぜかその感触がわかってしまう、手を滑らせる一通りの愛撫に彼女がどう身をよじるのかも、どんないじらしい科白を口にするのかも。目が眩む、こころ内は熱く、そこには確実に何かが芽生えていた。それは健全と言えば健全で、汚らわしいといえばまたそうなのかもしれない。

夜は、せつなく喘ぐたっとい夜は、きっと女のいっとう魅力的なところから生まれる。彼女においてはあの項から、甘く美しい宵闇の産声があがる。それはかすかで、純潔にまもられ、それでいてどうしようもない位に艶やかなのだ。




ため息が漏れる。
僕は今、眼前にあのしなやかな肢体を転がして、首筋を撫で髪を梳き、荒い吐息がつくる表情に口づけをしてみたかった。手探りで頬に触れ、舌触りの良い彼女の名まえを何度も何度も発音する。そうして育つ夜を貪って、僕の可愛い彼女をまるはだかにしてみたかった。


 夜は項からうまれる



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