あれほど焦がれた唇に自分のそれを重ねる。巧妙な仕掛けや駆け引きなど一切なく、飽くまで普通の恋人同士がするようなやり方で。彼は一瞬動揺の色をみせたが、最後には腹を括ったような表情で受け入れた。

表面だけを吸って舐めた。その中までは到底侵せなかった。それだけで自分を止められる自信がなかったからだ。深入りすればそれ以上を求めてしまうのは分かりきっている。それに宵闇に乗じて溺れるほど自分を見失うのは些か癪だったのもある、もちろん、そう出来たら良いと思う自分もいるにはいるけれど。

名残惜しくも唇を離せば、彼が舌打ちした。全くとんでもねえよおまえ、どうかしてる。一通りぼやきながら、袖口で唇を拭った。その動作を見て、そこまで意識してくれるなら逆に嬉しいものだと考えた。
頬が染まっていたかどうかは、この暗夜では見分けがつかない。けれども伏せた目が彼の内で息づく甘やかな感情をしめしていた。それは羞恥やかすかな嫌悪、この口づけをいけないものだと判断する彼の道徳と必死に戦っている。



「それではまたいつか、月下の淡い光のもと―――ではなく」

自分の科白にくすりと笑みがこぼれた。本当に、彼が言うようにいかれてしまったのかも知れない。



「真昼の陽射のもとで出会えたなら、ぜひともこの続きを」



 挨拶は白昼




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