そのひとが持つ特殊なからだと同じように、彼はまったくもって掴みどころのないひとだった。乱暴でふてぶてしい言葉を吐く、その癖頭の回転が早くてよく気のつくひとだった。





「気の強さは誉めてやるが、そう震えてちゃどうしようもねェなァ」

ワイングラスを揺らし、葉巻の煙をくゆらせながら、冷たく刺すような視線を注がれた赤い液体からわたしへと移す。
たったその目だけでしんでしまいそうだった、歪みのひとつもない鋭利な目。まるでわたしは獲物だった。抗うことも許されないか弱い獲物。


「あなたって本当に残酷だわ」

「違うな。残酷なのはおれじゃねェ、てめえの方さ」


おまえの綺麗な綺麗なおれへの想いをいつだってぶっ壊してやりたいと思ってたんだぜ、そう言って口角を僅かにあげた。


「……酷いひと」




彼の纏う冷気はなるほど乾いている。まひるの、灼熱の渇望とはうらはら、真夜中のしずかに冷え切った砂丘。獰猛な鰐のようにぎらついた瞳をひた隠し、じっと身を潜ませる。巧妙にはり巡らした罠で捕まえ屈服さして、彼は攫ってゆく。なんとも狡猾で洗練されたやり口。

不穏に光る左手の金属を焦点の合わぬ目で眺めた、そして閉じたまぶたから一すじ頬を流れゆくのを、彼の指尖がなぞって消してしまった。
そんな風に、わたしのからだの水分は一滴残らず彼が飲み干して、何もかもすべて枯らしてしまう。これから、この長い夜のあいだに。




「なに、てめえが死んだら、骨ぐらいはおれの砂漠に撒いてやるよ」




 砂塵にくたばる



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