「瞬くん」 柔らかな金髪を撫でた。彼は、まだわたしの隣ですやすやと寝息を立てている。覗き込めばまるで天使のような寝顔で、肩胛骨をまさぐったらもしかして羽根があるんじゃないかと思った。もし彼が天使だったなら、わたしたちはきっとふたりきりの楽園で暮らせるのに、そんな考えが頭をよぎった。 静かな朝方だった。窓からの光はその静寂をしめしたような薄い青色で、おだやかな冷気のように部屋を満たす。全てがあって、全てがなくなったような感覚を脳内のどこかで覚えていた。 ベッドの中はふたりの体温で暖かく、もう一生ここから出られないでいたらいいのに、とそんなことを考えたりした。ああそうだ、化石になっちゃえばいい、それはうつくしい寝顔をするひとを、閉じ込めてしまえる唯一の方法かもしれない。 「瞬くん」 その愛らしく固まったままの表情の至る所に、口びるを落とした。薄く目を開けた彼がわたしを見て、口元で笑った。 「…何ですか、お嬢さま」 「あら、昨夜の約束をわすれたの?朝までお嬢さま、は無しだって」 声を出さないように笑い合う。 明け方の四時、この愛に満ちた優しい城はまだ眠りについていた。惜しみない愛情を与えてくれる城、ここが目を覚まし活気づいていくのは多分もう少し後のこと。 可愛い彼には羽根なんかない、わたしたちは化石にもなれない。わたしたちは世界を排他したりはしないし、きっと到底できやしないのだ。 ああけれど、けれど。あとほんの少しだけは、この早朝をふたりの所有物にさせておいて。 my little morning |