この邂逅は喜ばねばならない。例え捕まえる捕まえられるの、物騒な関係であっても。むしろそれだから尚更だ。ふたりは毎日はであえない。なぜなら馴れ合うわけにはいかないからだ。惹かれ合っても愛でることは許されないからだ。捕まえる捕まえられる、そういう関係において保たねばならぬ秩序があるからだ。その距離を縮めてしまえばお互いの信念や誇りに傷がつくことは目に見えてわかっている。




「また、お会いしましたね」


落ち着いた、それでいて少しいたずらっぽい声が夜のビルの屋上に響いた。そしてひとつのシルエットが現れる。月を背にしているせいで、いつもの白い衣装が黒く染まったように浮かび上がる。


「相変わらず眼光が鋭いですね。お元気そうで何よりです、名探偵」

「てめえは相変わらずいけすかねえ口調だな、こそ泥さんよ」






恋びとだった。それは確かにお互いにとって唯一のひと。甘い科白がなくとも、甘い触れ合いがなくとも、その本当の正体を知らなくとも。恋い焦がれるから追う、恋い焦がれるから追われる。好敵手はただひとりきりで、代えなどとてもきかない。一般に定義されるようなそれとはまるで違っても、この交わす愛慕はそう呼ぶ以外に名まえがない。




夜の東京はまるで深海。高層ビルもネオンも雑踏も、ふたり、それ以外は無視され死んでいる。ふたりが立つたしかな床、この屋上は薄く波立つ水面。その下はとっくに溺れて沈んだ街。たった今ふたりだけが酸素を吸って生きている。
真っ直ぐな視線が心地良い。見慣れた口角はいつもの合図。向けられる銃口たちがなにか金属音で鳴いて、発砲に身をふるわせた。それはいかにも歓喜だった。





恋びとは深夜の海で



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -