空の礼拝堂はなんだかとても荘厳で神秘的で、足を踏み入れた途端違う世界だった。しんと静まり返る、清潔そのものといった風なその場所。いつもならあのカウンセラーの先生がいるはずだった、見回すけれどその姿は見つからない。そうして、変わりに目に止まったのは見慣れたオレンジの頭髪。

近寄ってみると長椅子に座る彼がゆっくりと振り返る。わたしを見ていつもの口調で、お嬢さん、と呼んだ。


「なんだ起きてたの。お姫様みたいにキスして起こしてあげようと思ったのに」

冗談を言いながら彼の隣に座る。微笑んで彼の顔を覗きこむと、一瞬驚いた表情をしてから、すぐ真顔に戻ってしまった。


「そりゃ、配役が逆でしょう」

考えてこむようにしていた彼がいきなりそう呟いて、にやりと笑う。そうしてそのまま長椅子の上に押し倒され、礼拝堂の天井が眼前に広がる。急いで起きようとしても、肩に手があてがわれていてそれが出来ない。


「え、あのっ新城くん!」

「ほら、お姫様は眠らないと。早く目閉じてください」

視界に彼が現れる。にやり笑いのままわたしを見つめ、ほら、とわたしが目を瞑るのを促した。口をぱくぱくさせながら、けれどももうどうしようもないと悟ってわたしは素直に目を閉じた―――そうして訪れる甘い感触。

彼は意外にも柔い口びるでわたしのそれを貪るようにさらってゆく、何度も。口付けを重ねる度響く音が、とてもいやらしく響いて、甘く美しいはずのこの行為がそんな風に思えるのはこの場所のせいかも知れないと考えた。清潔なこの場所。尊いはずの愛情が一気に背徳に成り代わってしまう程の、清く正しいこの場所。神さまは許してくださるだろうか、神聖なる建築物をこんな風に汚してしまう、わたしたちふたりを。神さまあなたは、きっとみんな見ていらっしゃる。

それでも願わくばあとほんの少しだけ、素知らぬ顔をしていなさって。




口びるがひたすら襲われるのを終えて、わたしは目を開いた。お早うございます、お嬢さん。口を尖らせてわたしは返事をする、馬鹿、と一言。それを聞いて彼はまたにやりと笑う。



気にしないでいっすよ、と彼が呟くように言った。何がと聞く前に彼は言葉を続ける。


「神さまには、おれが謝っときますから」


 礼拝はまた後日



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