シーツをうまく蹴れない日に限って夜の窓辺にやって来る客人に、厄介な奴が来たものだとあからさまな表情をしてみせた。汚れのひとつもない色を纏うくせに手管は誰よりもあくどい奴、それも華麗なほど。このおれが未だ手錠をかけられない唯一の男だった。
そいつは、音もなく現れる、目を離した一瞬のうちに窓ガラスをくぐり抜けて。そうして窓枠に腰掛けながら、自分と寸分違わぬつくりの顔に微笑みを貼り付けておれを見やる。


「挨拶は省略しましょう」

のこのことその首を敵陣にそろえた理由くら言えよ、と思いながら黙っている。どうやらけりをつけに来たわけでもなさそうだ、けれど急にやって来た敵に対していつまでもベッドの中にいるのもおかしいような気がして、ぬくいそこを出ようとする。そいつは今日も正装できめているのに、そういえば自分はまだ寝間着のままだった。

その間抜けさにベッドから体半分降りたところで動きを止める。と同時にそいつもおれを制する、「そのままで良いですよ」、やさしい微笑の口調が聞き慣れぬために少し戸惑う。


「寝台の上のあなたに用があるのだから」

かつかつと音を鳴らしてこちらへ歩み寄る。窓を通り抜ける光がそいつの白い衣装の上を滑って、やがて消えた。ベッドの方までは光が届かないからだった。

そいつがわざわざ真夜中にここへ訪れる訳など見当もつかない。寝台の上のおれが一体何だというのか、眉を顰めているとそれを見てそいつはくつくつ笑う。

そして「私は」、と口を開く、おれは黙ってその続きを待つ。柔らかな笑みと視線をただただ不思議に思いながら。


「あなたが何度も盗んでゆく私の初恋を、取り返しに来たまでです」


そうしてそいつの手がおれの体をベッドの中へ押し戻した、何か今とんでもない爆弾を落とされやしなかったか?―――マントを広げておれをすっぽりと覆ってしまう、まるで手品でもするように。そうやって重なった体にある種の体温を感じたけれど、その科白の意味を理解しきれない。あ然としたおれをまたくつくつと笑う、マントの中はひたすらそいつの匂いで満たされ、頬に添えられる手の感触、ああそれから、それから。



窓際に花を落としてゆく



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