家庭教師のサンジくんとその生徒(中学生女子)の話






「先生」

先程からずっと眉間に皺を寄せていた彼女がやっと口を開いた。「あのね」、「これって聞いていいことなのかわからないんだけど」、そう続けておれの表情を伺う。一体何を質問されるんだと思いながら「構わないさ、何でもきいて」、笑顔で返事をした。

「高校生の彼氏がいる友達がね、昨日初体験したって言ったの」


……ああなるほど、そういう話か。中学生の女の子とする話ではないよなあとこころ内で思いながら相槌を打つ。自分はあまりそういう話をしない方だったし、彼女が中学生ということもあって尚更気まずさが増す。ベッドの上のうさぎの縫いぐるみがおれを睨んでいるような気がした。


「わたし、わからなくて。何を体験したのって聞いたんだけど、恋人がすることよってちゃんと教えてくれないの」

何をしたんだとおもう?、そう聞く口振りがあまりにもあどけなかった。中学生の女の子なんてもう充分年頃だろうと思っていたが、こんなに純粋なものなのか。けれどもそういえば前の生徒は結構言い寄ってくる子だったなあと思い出す。可愛い子だったがあれにはさすがに閉口した。もちろん手は出してない。………おれを騙しているようには見えないし、やはり彼女が例外なんだろうか。




「あー、恋人ってのはさ、夜一緒に眠るだろう」

彼女が頷いた。この先をどう続けるべきか。


「そうすっと、夢の中で会うんだよ。けど夢の中なんて真っ暗で何もわからねえから、こう、触り合って自分の恋人か確かめるんだ」

ふうん、と頷いた顔は凄く不思議そうだ。我ながら変な説明をしたぞと思った。赤ん坊を運ぶコウノトリが頭をよぎったが、あんなに突飛な話でもねえよな、と苦笑する。「だって朝起きたときに違う奴がいたら困るだろ」、そうおどけてみせるとそれはそうねと彼女はくすくす笑った。

まあ、恋人同士で寝るってことは大概指すのはそういうことのはずだから、この説明もまるきり違うわけじゃないだろう、要はからだを触り合うってことだ。確かに大事な所を抜かした気もするが。けれどそんな質問をする女の子に一から教えるなんて到底おれには無理だったし、大抵の大学生の男には不純さのなしにそんなことを教えるなんてできないだろう。





「……ねえ先生、一緒に寝たら、わたしたちは夢の中で会えるかな」


頬杖をついていた彼女がぼそっと呟いた。

「わたし、その髪型とか顎髭に触らなくっても、………先生なら爪の先だけでわかるとおもうよ」

その頬杖していた左手を外して、おれの指尖にちょん、と一瞬触れた。その瞬間にそこに電撃がはしる。



「そんな顔、しないで」

呆けたおれを見て、彼女は口を尖らせた。その仕草があまりにも可愛いらしく、おれの胸を高鳴らせる。指尖は熱い。それに彼女の頬が赤いのは頬杖のせいではないこと、目を伏せているのは退屈だからではないことをおれはちゃんと知っていた。今すぐに彼女を抱きしめたかったが、テーブルを挟んで座っているせいでそれは適わなかった。代わりにそのテーブルの上にのせられたままの手に自分の手を重ねる。幼さが残る手だったが、ちゃんと女の子のものだった。彼女がびく、とからだを震わせておれを見る。そしておれも見つめ返す。

「先生」、そう呼ばれて、どうやらおれは先生失格らしいと考えた。指尖を絡ませる。依然、うさぎの縫いぐるみの視線は突き刺さったままだ。



手引きは指尖からはじめて



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