彼の性分に口を出したりはしない。いや、出来ない、の方が正しいのかも知れない。彼は無償の愛を惜しみなく振り撒く、そういうひとだった。それは彼の長所だったし、惹かれる点でもあった。世話焼きで、与えたがりの優しい彼、そんな彼にどうしてわたしが文句など言えるだろう、咎めることが出来るだろう?



とは言え、不満はあるのだ。頭ではわかっていても、それ以外のどこかが納得いかないと唸っている。たったわたしだけが彼を独占したかったし、たった彼だけがわたしを独占してくれたなら良かった。彼の特別な女の子になりたかった、元来彼の特別な女の子たちの、それよりもっと上。

「僕はあなただけを愛しています」、もちろん、彼の言葉に偽りはないのだ。あなただけを―――この範囲を限定する助詞は、他の女の子たちと比べてという意味じゃない。わたしと彼の一対一の世界で、彼はわたしだけを愛しているのだった。だから同じ科白を誰彼にも言える。少なくともわたしはそう解釈していた。そうでなくては、誠実な(この表現にもまた独特な解釈が必要だが)彼と辻褄が合わなくなってしまう。


「マドモアゼル、なぜそんな難しい顔をしているの?」

 
穏やかな笑みでサンジくんは紅茶を注いだ。慣れた手つきは鮮やかで見とれてしまうほど。わたしは彼の手が好きだ。白くて、細くて、長い、それでいてちゃんと男の子の手をしている。


「サンジくんは、わたしの執事さんみたいね」

「ええ、僕はいつだってあなたの下僕ですよ」


突然彼がかしこまってお辞儀をした。それに合わせて金髪がさらりと流れる。そうして顔をあげてから、目を合わせてくすくすと笑い出した。わたしは彼の笑顔が好きだった。




結局のところ、他の女の子がいようがいまいが、彼のわたしへの対応は変わりはしないのだ。わたしはあなたのもの、そしてあなたはわたしのもの。それ以外に何があるだろう?わたしは彼の好きな女の子で、独特な誠実さもつ彼を、わたしは好きになったのだ。たったそれだけだ。





「マドモアゼル、」

けれどもただひとつその博愛に甘えるならば。

「他に何かご所望は」


「そうね―――わたしに恋をして頂戴」



 博愛の従僕



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