「コーヒーを淹れるの、お上手になりましたね」

彼女に手渡されたコーヒーカップを口から離しながら、思わずその褒め言葉が漏れた。

彼女は最近頻繁にここへやって来る。その度私がコーヒーを淹れていて、今ではもう彼女専用のコーヒーカップがあるくらいだ。ところが今日は、部屋へ入るなりわたしが淹れますと言う。そんなに言うならと考えて、それではお願いしますと任せたのだった。

褒められたのが擽ったいとでもいうように彼女は照れ笑いで礼を言う。



「だって、九楽さんが教えてくれましたから」


彼女がコーヒーの淹れ方を知らなかったというのは、青山君が彼女を私の手伝いに寄越した時に聞いた。だから教えたのだが、それは飽くまでも簡単にだった。そこまでの上達を考えての指導ではなかった。



「美味しく淹れられるようになったから、九楽さんに飲んで欲しくて」


ああ困ってしまう。
この久しぶりに感じる鼓動。照れた彼女の、その僅かに赤い頬に戸惑う。微笑みが明らかな好意を示していた、私はそれを受け取ってしまいたいと思った。この歳にしてまだそんな甘いことを、と自分を嗤う。

仮にこの動悸が恋だとするならば、それに年齢など関係ないと世間一般の殆どは言ってくれるだろう。けれど、年齢差はやはり障害になり得るのだ。現に彼女を愛おしく思っているのに抱きしめることも出来やしない。甘く溶かす程の科白だって、もう自分の内側のずっと奥で廃れ錆び付いてしまっている。いつだったか遠い昔日にあれ程魅了された恋の炎は、どう考えてもこの身にはもう不相応だった。




「……私は時々自分の年齢が恨めしくなります」


こぼれた言葉にすぐ後悔した。言うべきことではなかった。はっとして彼女の顔を見れば、寂しそうに見つめ返される。


「そんなの、わたしだって同じですよ」


そうぽつりと呟いた彼女を、今すぐこの胸の中へ引き寄せたかった。強くそう思った。しかしそれが衝動としてでも現れることがないのは、まだ後ろめたさがあるからだった。瑞々しいまでの彼女の若さを、すっかり老いた私なんかが占有するのはあまりにもったいないことだと。


「若いうちから老いることを望むのは感心しません」、そう言いながら彼女の形の良い頭に手を伸ばす。そうやってあたかも保護者のような顔をして触れるのが精一杯で、うら若く潤んだ瞳を、ただただ羨望した。




 昔日は青くとも



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -