泉/最後はいつ?

「いっ、ずみー!」


「……はぁー」




最後はいつ?



「おはよう!今日も元気!?」

「…うっせぇ。お前、なんでそんなに朝からテンションたけーのよ」


なにかしら突っかかってくるヤツ。


名無し


クラスが同じわけでもないし、ある日突然話しかけてきてよろしく言って去っていった神出鬼没な女子。


それからほぼ毎日。

朝、昼、放課後。


なにかしらちょっかいを出してくるのだ。




「はぁー…。またかよ」


午後9時まで練習でクタクタ。
帰り支度をして部員全員で校門へ向かう。
しかしそこには、一人たたずむ女子生徒が居た。


「泉!練習お疲れ様」

「いい加減にしろよ、お前」


こっちはげんなりしてる顔をしてるのに、名無しはニコニコ笑ってやがる。


「一緒に帰ろう?」

「…ダメだって言ってもついてくるんだろう」

「えへへ」


歩きの名無しと一緒に帰れば、家に着くのに自転車で帰るより二倍時間がかかってしまう。
さっさと家に帰って風呂に入って寝たい。
しかし、この時間帯に女一人で帰らせてなにかあっても困る。


「泉、送って行ってやれよ」

「花井」


さっきまで黙って見ていた花井が口を挟んできた。


「なんでお前が言うんだよ」

「いや、あの…、だって同じ方向だし…」

「はぁー…、わかったよ」

「やったー!行こ、泉!」


名無しは俺の手を掴んでずんずん先を歩く。


「ちょ、待てって!」

「それでね?京ちゃんが授業中にいきなり立ち上がって…」


俺はあー、うん、などしか相槌しか打たず、名無しが一方的に話しているだけだった。


「ちょっと、泉!聞いてるの!?」

「あー」

「聞いてないじゃん!もうー、ダメじゃん」


疲れきってるのにグチグチ、グチグチ…。
早く家に帰りたいのに、なんでわざわざコイツに説教されなきゃいけないんだよ。

はぁー、と深くため息をつく。


「お前、ウザいんだけど」


何も考えずに軽く口から出た言葉。
はっ、として隣を歩く菜を見ると、名無しは目を見開いて俺を見上げる。

目は少し潤んでいて、泣くのを我慢しているようだった。

女子に言っちゃいけないんだっけ。


「……ごめんなさい」


小さな声で名無しは呟いた。


「もう話しかけないから、嫌いにならないで」

「…」


家に着くまで互いに一言も喋らず、名無しのすすり泣く声だけが夜道に響いていた。





「送ってくれてありがとう。それじゃあ」

「…おう」


しんみりした空気に耐えられず、俺はぎこちなく返事をしてさっさとその場を立ち去ろうとした。


「ねぇ、泉!」


名無しに呼び止められる。


「あ?」

「もし、さ…私が居なくなったら寂しい…?」


真剣な顔つきで名無しは俺に尋ねてきた。



「は?お前なに言ってんの?」

そりゃあ、煩いやつがいなくなれば毎日が平穏になるだろう。


「そうだよね!ごめん、ごめん」


さっきの表情とはうって変わって、いつものへらへらした笑顔に戻っていた。


「また明日ね!」


そう言って名無しは手を振りながら家の門の中へ入っていった。

よくわからなかったが、名無しが家に入ったのを確認して俺は自転車に乗って家を目指した。

翌日。
俺は名無しの言葉の意味を知ることになる。




「おーっす、花井」

「おう、泉」


7組の教室を覗くと、ちょうど花井が現れた。


「古典あったら貸してくんね?」

「いいぜ」


助かった。
時間割変更があったことを忘れていて古典一式すべて忘れてしまったのだ。


そういえば、今日はあのやかましいヤツがいない。
いつもなら飛びかかってくるのに…。
珍しく休みなのだろうか。


「花井、名無しは?」

「あぁ、名無し?……泉、何も聞いてねーの?」


花井は少し驚いた顔をして俺を見た。
何のことを言ってるかまったくわからず、首を傾げる。


「なにが?」

「あいつ、もうここにはいない」

「えっ…」

「名無し、転校したんだ」


てっきり泉には話してると思ってたよ。
古典の道具を花井が差し出す。


「あいつ…、悩んでたんだよ。お前のこと好きになったのはいいけど、もう時間がないってさ。
相談してきたんだけど俺わかんなくて、とにかくアタックしろって言っちゃったんだよ」


俺は花井が言っていることを呆然と聞いていた。


昨日の名無しの言ったことは、そういう意味だったのか。


「俺、どうしよう」

「何かしたのか?」

「あいつに酷いこと言っちゃった」


昨日、あんなに傷付いた顔をさせてしまった。
ウザいとしか思っていなかった名無しを思うと、今はこんなにも胸がざわつく。


なぜだろう。


あれが俺と名無しの最後になってしまった。
そう考えると、急に悲しくなってきた。


「お前、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない…」


どうして、こんなにも胸が痛いんだ?


どうして、俺がこんな思いをしなくちゃならない?


「もしかして、さ?泉…、名無しのこと好きだったんじゃねーの?」


俺が、

名無しを好き?


花井が放った言葉をようやく理解することが出来た。


俺って名無しのことが好きだったのか。


「花井、助かった!ありがとう」

「お、おう?」


花井は訳が分からないような顔をしていた。

まるで東大の入試問題が解けたように、俺の頭の中はすっきりしていた。
実際、東大の入試問題なんて見たこともないけれど。



いまでも遅くない?



君が許してくれるのなら、僕はいつまでも叫ぶよ。



俺はお前が好きだ。


END

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