切原/罠を仕掛けて、待っててあげる。
「随分甘やかされてるんだね」
「…んだと?」
毎日のように先輩達と試合して負ける。
ましてやあの三人に勝ったことなど一度もない。
苛立ちは溜まる一方。
そして部室に入った瞬間、掛けられた言葉に溜まっていたそれは爆発した。
相手は、三年の名無し先輩。
滅多に話すことはない。
むしろ声すら聞いたことなかったかも。
影でいろいろ仕事してるからコートに姿を現すことはないが、部員からの信頼は厚い。
「だってそうじゃない。普通、暴力事件を起こしたら退部でしょ?なのに真田の一発で終わり。あ、甘いのは真田もか」
「暴力じゃねぇし」
「ふーん、あれがテニスの試合って言えるんだ。ナルホドネ」
茶化すように言う名無し。
俺だってやりたくてやってるわけじゃない。
相手が俺を哀れんだ目で見るから、ムカつく目で見るから。
お前は俺に敵わないっていう目で見るから。
だから後悔させてやるんだ。
ほら、ざまあみろ。
俺が勝ったじゃねぇーか。
それのどこが悪い。
「いい加減にしろよ」
襟元を掴んでロッカーに叩きつける。
女だろうが容赦はしない。
苦しいのか、ケホッと小さく咽る。
歪めた顔はいつもの澄ました顔に戻る。
「いい加減にするのはどっちよ」
細い腕からは想像できないほどの力で。
俺の襟元を捻り上げる。
「あなたのラフプレーが、立海大附属の名に傷をつけることになるのよ。幸村達が積み上げてきたものを壊すことは、私が許さない」
睨みつける鋭い目。
「ふざけんな。ガキが」
この目に、俺の中の何かが刺激された。
「いいね」
「…は?」
気の抜けた声。
俺が手を離すと名無し先輩を離した。
「気の強い女は嫌いだ」
攻略難関なゲームは好きじゃねぇ。
回りくどいこともめんどくせぇ。
「だけど、あんたのことは好きだ」
たまには攻略してみるのも悪くない。
「わかったよ。もうあんなプレーはしねぇ。そのかわり、俺と付き合ってよ」
「言葉遣いに気をつけなさい。先輩なのよ」
「はいはい、わかったよ。んで返事は?」
「ノーに決まってるでしょ」
「ははっ、最高!あんたのこと、絶対落としてみせるよ」
「…絶対にありえない」
「どうだか」
「楽しみにしてろよ?」
罪を仕掛けて、待っててあげる。
END
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