手塚/その日は雨が降っていた。
いつも俺の後ろを必死で追い掛けていた名無しは、ぱったりと姿を消した。
その姿がいつから消えてしまったのか、俺は知らない。
「テニスをやり始めたのは、国光と一緒に居たかったから」
そうでもしないと、国光は私に興味を持ってくれなかったでしょう?
名無しは微笑みながら言う。
「でも、今は違う」
「テニスが好きだから。楽しいから」
「自分のためにテニスをしてるの」
「だから、もう自由になっていいよ」
本当はわかっていたんだ。
ずっと一緒にいることなんて不可能なことに。
ただ、気づきたくなかった。
現実と向き合うのが怖かったから。
ああ、そうか。
俺が立ち止まっている間に、名無しは俺を追い越して前を歩いてたんだ。
心のどこかで俺は名無しの側にいなければならない、と決めつけ、それを青学にいる理由にしていたんだ。
その日を最後に、名無しはプロツアーに参加するため日本から飛び立って行った。
そして、俺は。
ドイツに行くことを決めた。
その日は雨が降っていた。
END
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