不二/可愛い君の可愛い我侭



「周助」

「名無し、パンツ見えるよ」

「周助、周助ぇ、周助ー」


ごめんね、名無し。
今は手が離せないんだ。

高校に入学し、もちろんテニス部に入って夏休みも部活三昧。
数日ある休みの中で、膨大に出された宿題をやってしまわないといけない。


「周助ー、しゅーすけー」

「なに?名無し」

「しゅーすけー」


あまりにも可憐な声で僕の名前を連呼するものだから、問題を解く手を止めて振り向くと、先程の状態と変わらず、ベッドの上で持参した漫画を仰向けで読んでいる。
返事したにもかかわらず、名無しは僕の名前を呼び続ける。

短いスカートからスラリと伸びた脚を優雅に組んで。

思わず触れたくなるけど、我慢。

今日宿題を終わらせないと、もうやる日はない。
それに名無しは僕の終わらせた宿題を写すだろうから、名無しのためにも終わらせないと。
一緒に居れるならそのためだけに利用されてもいいかも、とか思っちゃう自分。
本当にそうだったら泣いちゃうかもしれないけど。


「しゅうすけ、しゅーすけー、シュースケー、……シュークリーム?」

「…名無し」


最後のは、なに?


「僕はシュークリームではないし、食べたいなら冷蔵庫に姉さんが作ってくれたやつがあるから」

「ただ言ってみただけ」

「そんな格好してると風邪ひくよ」

「わかってる。だってわざとだもん」


「わざと」?
確かに東京の夏は蒸し暑くて涼しい格好をしたいのはわかる。
けれど男と二人きりの部屋で、その格好と姿勢はいただけないな。
僕じゃなかったら、もう襲われてるよ。


それが男ってものなんだから。




「……まさか、誘ってる?」

「さっきからそのつもりなんだけど?」


漫画をパタンと閉じて僕に近づいてくる名無し。
キャミソールの間から覗く鎖骨が浮き出ていて、思わず噛みつきたくなる。




こんなに僕を惑わすのは名無しだけだよ。




「クスッ、どうなっても知らないからね?」

「望むところ」




今日中に宿題が終わることはないだろう。




可愛い君の可愛い我侭


END

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