鳳/リアルな体温



「私が我が儘だからいけないの」

「我が儘?いつ我が儘なんて言ったんですか?」

「言ってはいないけど、思っちゃうの。心の中で」


彼の愛がすべて私に向かってほしい、って。


「100%じゃないと嫌、って思っちゃうようになって。そんなの無理なことだって分かってるけど」

「普通のことでしょ?あの人がおかしいんです」

「そんなことない。私が」

「俺なら」


「俺ならあなたに100%の愛を注いであげられるのに」


「おお、とり…くん…」

「でもあなたには堪えられない。あなたが愛してるのは、俺じゃないから」


「だから、せめて、あの人からの愛が足りない分を、俺で満たしてください」


「できないよ」

「俺は、もう溢れそうだ」




「前に先輩、一つだけお願いを聞いてくれるって言いましたよね」
「うん」

「今ここで聞いてください」

「なあに?」

「俺の胸で泣いてください」

「急に言われたって、泣けないよ?」

「大丈夫。嘘泣きでいいですから。さあ」

「……」

「鳳くんの体、温かい」

「名無しさんの方が温かいですよ」

「ねぇ、嘘泣きってどうすればいいの?」

「お手本、見せましょうか?」

「えっ!?」

「うわーん!うわーん!」

「ぶっ」

「こんな感じで。さあ、どうぞ」
「う、わーん…わーん…」

「続けて」

「うわーん!うわーん!」

「……続けて」

「っ、あぁー…」

「……」

「うぅ……ひっ、く……」

「辛くなったら泣いてください。いくらでも受け止めますから」






リアルな体温






END

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