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雄英高ヒーロー科カリキュラム。
午前は必修科目。
英語を担当するのは、ボイスヒーロー「プレゼント・マイク」。
教科書を手に黒板に白いチョークで例文を書いていく。
「んじゃ、この英文の中で間違っているのは?」
普通だ。
ヒーロー科と言えど、必修科目の単位を落とせば落第である。
入試試験といい、入学初日の”個性”使用可の体力テストといい、通っていた中学では有り得ないイベントに「これが雄英高校か」と心躍っていたが、普通の授業スタイルに生徒達は呆気にとられた。
一つ違う事といえば、教師がプロヒーローだという事だが。
「Everybody hands up!盛り上がれ〜!」
すっと手を挙げた八百万を指名する。
「Okey〜!八百万、Came on〜!」
「間違っているのは4番ですわ」
「正解だ〜!この英文は教科書の12ページの構文を参考にして」
プレゼント・マイクは間違っている英文について、教科書に載っている他の例文を参照にして説明していく。
立ち上がって解答した八百万は、プレゼント・マイクの説明が始まると椅子に腰を下ろしノートに板書していると後ろから視線を感じ振り返った。
視線の正体は名無しだったが、目が合うと逸らされてしまった。
いつもであれば授業中に声を掛けるという事は滅多にしないが、相手が名無しだけに極力小声で話し掛けた。
「どうかいたしまして?」
「や、八百万さん…」
声を掛けると同じ様に小声で返事をする。
「授業中は、どうしたら、いいの?」
八百万はそういう事かと納得した。
名無しの机の上には教科書は置かれているが開かれておらず、筆記用具やノート、辞書はない。
教えてあげたいが、今は授業中である。
どうしようかとプレゼント・マイクを窺うと、授業を進めつつ八百万の方を見て小さく頷いた。
名無しの事情はすでに教師陣の中で共有されているようだ。
「授業は通常教科書の内容に沿って行われます。授業の内容を板書、先生がおっしゃったことの要点をまとめたり、疑問に思ったことをメモしておくと良いですわ。質問は授業中ですと進行を妨げてしまう可能性もありますので、授業後がよろしいかと」
名無しは八百万の目を見ながら、うんうんと頷く。
「今お伝えしたことは基本的なことです。ノートのまとめ方は人それぞれですから、自分で後から見てもわかりやすいようにまとめ方を考えていきましょう。ご参考までに私のノートをお見せいたしますわ」
「あ、ありがとう、八百万さん」
「名前で…百とお呼びしてください」
「も、百さん?」
「えぇ。私も名無しさんとお呼びしても?」
「う、うん」
「クラスメイト同士、助け合うのは当然のことですわ。授業の後に休憩時間があるので、ゆっくりご説明いたしますわ」
「百さん、よろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げた名無しは、筆記用具とノートを鞄から取り出すと八百万と同じ様に机に広げた。
その様子を見た八百万は微笑み、授業に追いつこうと体を前に戻そうとする途中、轟と目がばちっと合った。
小声とはいえ授業中に話していた事を咎められると思ったが、すぐ視線は外された。
八百万は安堵し、授業に集中しようとした。
が、ふと思った。
あの視線はどういう意味であったのだろう。
先程の轟の視線は咎めるようなものではなく、違ったものに感じた。
ちらっと隣の席に座る轟を盗み見るが、昨日から見ている表情そのままだ。
授業中ですし、普通にしてない方がおかしいですわよね。
八百万は再度名無しの様子を窺い何か書き込んでいるのを確認すると、自分も机に向かいすらすらと板書していった。
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