▼ 大友宗麟と恋
聞き慣れない、寧ろ生まれて初めて聞いたその言葉が私の耳を突っ切ったのは、24日になったばかりの時間帯だった。携帯の画面に表示された幼馴染みの名前を見たその時に通話拒否でもしていれば良かった、と今更思う。
そして24日の昼。
無理矢理連れて来られた、幼馴染み宅でのクリスマスパーティ。広間の煌びやかな飾り付けは、つい先程まで寝ていた私には少し眩しすぎた。
「メリーザビリマース!」
怪しげな黒の宗教服に身を包んだ人々が、広間に流れるクリスマスソングを掻き消すように発するその言葉。幼馴染みも言っていた掛け声のようなそれが一体何なのか、よく分からない。
多分、幼馴染みが心酔してるザビー様なる人の魅力を知らなければ分からないのではないだろうか。
「メリーザビリマス!こんぶ!」
『…ねぇ、メリークリスマスでしょう』
「違いますよッ!メリーザビリマス!です!」
『……??…?』
「まったく…、貴女はいつまで経ってもザビー素人ですね…」
『宗麟君、宗麟君。検索してもメリーザビリマスが出てこないよ。メリークルシミマスとはニュアンスが違うの?』
「黙りなさい!」
パァン、
そう一喝すると同時に宗麟君が手にしていたクラッカーを私めがけて鳴らした。
飛び出してきたクルクルの紐やらキラキラとした細かい紙が、私の髪に絡みつく。焦げた匂いに顔をしかめた。
「いいですかこんぶよく聞きなさい。12月25日はーー」
『帰るね。宗麟君に邪魔された睡眠時間を取り戻さないといけないから』
「待ちなさいッ!まだ始まったばかりですよ!」
『離しなさいな。私は帰る。炬燵と言う名のダーリンが待っているんだよ』
少し異様なクリスマスムード漂う広間から退出しようと、踵を返した。腕を掴んできた手は振り払い、そのまま歩き出そうとーー
「…何なんですか…貴女は、いつもいつも…僕に構ってくれない…」
したけれど、今にも泣き出しそうな弱々しい声が聞こえてきたから、足を止めて振り返ってしまった。俯いて、唇をキュッと固く結んだ宗麟君が、そこに居る。
「今日だって、折角、貴女に贈るプレゼントも用意したのに…」
『……宗麟君…』
「…………」
『…ゴメンね。少し冷た過ぎたかな』
「もういいです…」
くるりと身体の向きをかえて、段々と遠ざかっていく寂しげな背中。
『…』
何だかとても後味が悪くて、家に帰ろうと踏み出した足はそのまま進もうとはしなくて、つまりは彼を放っておけなかった。
BGMとして流れていたクリスマスソングに変わり、軽快なリズムが広間を包む。周りの人々は皆、軽やかな足取りで踊り出す。
私は小さくなってしまった背中を追いかけて、その手を掴んだ。
『踊ろうか、宗麟君』
「…!」
偶にはこんなクリスマスも
いいかな、なんて。
それにやっぱり、君には笑顔が似合う。
『…にしても、結構信者がいて驚いた恐るべしザビー教』
「ザビー様には人々を惹きつける魅力がありますからね」
『あそこの肖像画を見る限りそうは思えないけどなー』
「ちなみに貴女は僕の幼馴染みという立場なので既にザビー教信者名簿に登録済みです」
『メリークルシメマス』
20141225.
大友宗麟とクリスマス
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