クリスマスor正月 | ナノ


▼ 長曾我部元親と恋

ゴーンと大きな音がテレビから流れた。
時計をチラリと横目で確認すれば、
00:00が表示されていて…。
クァッと大きく欠伸を一つこぼし、今年初めの欠伸だなとどうでもいいことを思った。
そして、炬燵にてその小さな体を丸めて寝ている愛おしい女を起こすため、少し声を上げた。


「おい、こんぶ起きろ。初詣行くんだろ?」
「………っん」


一度びくりと身体を震わせたあとノソノソと炬燵からあのサ○コのように這い出てきた。
そのなんとも言えない色気のなさにははっ、と乾いた笑いを一つ。
まさか初笑いがこんなにも乾いたものになるなんて思ってなかった。
そんな俺に、こんぶは俺とは違って柔らかい幸せそうな顔でへにゃりとして笑って遠くもないのに手を振ってきた。


「はよ、ちょうちょかべもとちか」
「長曾我部な?
ほら、さっさと覚醒しろ。甘酒飲まねェのかよ」
「甘酒………起きる」


うんしょっと、気の抜けるような掛け声と共に起き上がったこんぶは、少しボサついた髪を手櫛でとかそうとして………やめた。
ノコノコと危ない足取りで近づいてきて俺の前に座ったかと思えば、んっ!と髪を親指で指し示す。


「よろしく頼んだ、姫若子」
「………お前、おちょくってんのか?」
「いや?ただ私がやるより君がやった方が早いと思っただけだよ。
それに綺麗にしてくれるだろうし?」


睨みつけるような上目遣いに俺は溜息を吐きはいはい、と柔らかい髪を手に取った。
取り敢えず、誰かこいつに上目遣い教えてやってはくれねぇか。



ーーーーーーー



「人が多い気がしなくもないのだがね、姫若子」
「その呼び方やめろ。
あと気のせいじゃなく、人は多いぜ?」
「ふむ………矢張りか。
面倒な。この中を通って甘酒を飲みに行かなければならないのか、いや誠に面倒」
「甘酒よりまず、参拝だろうが。
ほら行くぞ」
「ん」


まるまると着込んだこんぶの手を取り、引っ張る。何時もよりも足取りが重いのはこの人混みだからか、それとも眠いからなのか………いや、どっちもか。


「やい、長曾我部。
物思いに耽る暇があるのなら私をさっさと連れて行け」
「今、現在進行形で連れてってるだろうが!!」
「あれ、長曾我部。
現在進行形なんて言葉知っていたんだね。
いやぁ、驚いた驚いた」
「てめぇ、俺をなんだとっ!」


声をあげそうになってハッと気づく。
このまま流されてはこんぶの思う壺ではないか。それだけは阻止しなければ。
飛び出そうとした言葉を瞬時に飲み込み、口を噤めばこんぶは何処か不安そうに顔を歪めた。


「おい、長曾我部。
君、なんだか今日は勘が良いな。
なんで?」
「今年こそ、あんたに翻弄されないようにするんだよ」
「神頼みでもすればいいのでは?」
「ああ、そうしようかな…って、んなくだらねぇこと頼めるかよ!」
「くだらないとは酷い酷い」


ニヤニヤとしながら俺の腕をつかむこんぶ。
そんなこんぶに思いっきりデコピンを返して俺はふと前を見る。
どうやら気づかないうちに参列に並んでいたらしい。


「後どれくらいいる」
「あと少しだぜ?」
「んー、早に甘酒」
「どんだけ甘酒飲みてぇんだよ」


思わず大きくため息を吐けば、おかしそうに笑う。こいつはどれだけ俺をからかうのが好きなんだ。
今年もなんだか疲れた年になりそうだ。


「長曾我部。前、前見て。進んでるよ」
「ん?おお………って次じゃねぇかよ」


前を見ればすぐそばに社があって。
下を見れば、眠たげな顔で欠伸をするこんぶ。
これは何を言ってもダメだな。
早々に諦めた俺は前の人がどいたのを目の隅に、こんぶの腕を引っ張った。



ーーーーーーー



「ふぁ…甘酒美味」
「そりゃぁよかったな」
「美味美味………長曾我部飲む?」
「俺は酒を飲む」
「美味しいのそれ?わからん」
「下戸だろうが、あんた」


あ、そうだった。
そう言って甘酒を飲み始めるこんぶ。
その顔は先程と違って緩みっぱなしだ。


「ところで長曾我部。何をお願いしたんだ?」
「あ?……ああ。
いや、今年もいいことありますようにーって」
「いいことねぇい。定番よな」
「うっせぇ。
そういうこんぶはなんなんだよ」
「ん?私?少しでも長く…」
「?長くなんだよ」
「………………なんもない」
「はぁ?」


なんだそりゃぁ。
そういえば、うるさいっと俺の髪を引っ張る。
いてぇと言えば、数秒立った後に離してくれた。………優しいんだかよくわからないな。
モヤモヤしながら下を向けば、そこには何処か顔が赤いこんぶ。
………ああ、成る程な。


「可愛いなぁ、あんた」
「っ!だ、黙れ長曾我部!!」


バシンッと頭をはたかれたが、なんだか微笑ましくてそれすらも笑えば、もういいっ!と言って御神籤の方向へ行ってしまった。
俺もそれについて行く。


「ついてくるな!!」
「俺だって御神籤ひきてぇ」
「む………そうか」
「おう」


俺たちは金を払い巫女から御籤を受け取った。
その時こんぶから巫女になろうか………という声が聞こえて微妙な顔をしてしまった。
御神籤に反映されなければいいが。
そう思いながら御神籤を開ければ…。


「お、大吉」
「私も」


どうやらお揃いで大吉だったらしい。


「よかったな、俺たち」
「ん」


よほど大吉が嬉しかったのか、先程の怒りはなくなり再び此方に擦り寄ってきた。
それに笑って頭を撫でる。ふとその時、まだ言ってなかった言葉がよぎり、俺は笑って言った。


「こんぶ」
「?」
「あけましておめでとう」
そう言えばこんぶは


「………あけおめだよ、元親」


と今年初めて名前を呼んでくれた。





(引き寄せたこんぶを)
(強く強く抱き締めれば)
(暑いと言って)
(俺の髪をまた引っ張った)





20141225.
長曾我部元親と正月

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