▼ 柴田勝家と恋
夢を見た。
「にいさま、こんぶが朝倉を攻め落としたならば長政様の首をくださいませ。」
「おやおや、私の可愛いこんぶはそんなモノが欲しいのですか?ククク……」
兄さんへと絡み付きながら人の首をねだる私とそれを愛しげに見つめる兄さん。
そして長政という男の首を漆塗りの盆へと載せて嬉しそうに勝家へと会いに行く私。
「勝家様、見てくださいませ!こんぶは勝家様の為に長政様の首を頂きました。これでお市様は独り身にございます。」
嬉しいでしょう?偉いでしょう?と擦り寄っていく私を大きく見開いた、驚いた目で見つめてくる勝家に「だから愛して」とねだる私…………
そこで目が醒めた。
不思議な服装をしているけどにいさまは兄さんで、勝家様は勝家なんだけど……お市様と長政様は見たこともない人だし、何より私がバカ過ぎて頭が痛くなる。
「こんぶ、起きて来ないならドアを開けますよ?」
「起きてるから開けないで下さい!」
毎朝のやり取りを終えてから学校へ行こうとドアを開けば何時ものように私を待つ勝家。
「こんぶ、おはようございます。」
「勝家おはよう。今日も朝から勝家に会えて嬉しい。」
にっこり笑顔で言えば、勝家は何時ものように他には何もうつさない瞳で私を見つめる。
「私も、こんぶに会えて心が満たされた。」
私にだけは解りやすい愛情を返してくれる勝家の手を取り指を絡めれば、キュッと握り返してくれたから何時ものように一緒に歩き出す。
「ねぇ、今朝凄く嫌な夢を見たの。」
勝家が違う人を見ているのと言えば有り得ないと珍しく大きな声で否定をくれて少し嬉しくなった。
「私にはこんぶ、貴方だけだ。何故かは解らない……だが貴方を初めて見た時から私を誰よりも愛してくれるのは貴方だと解っていた。」
私以外だと愛情が足りなくて死んでしまうらしい勝家。前世はウサギだと思う。
「勝家、私も勝家だけだよ、だから……他の人は見ないでね?」
繋いでいた手を口元へと引っ張り勝家の腕に思い切り歯を立てれば口内に広がる鉄の味……
「もし夢のように勝家が他の女を気に入ったなら……きっと殺しちゃう。」
貴方を、とは言わなくても解ってくれた勝家は歯形の入った腕へと唇を落としてからそっと呟いた。
「貴方が死ぬ時は私も共に、私が死ぬ時は貴方も共に……全て生前より定められし事だ。」
その言葉に喜びで震えた私は思わず勝家へと抱き付いた。
「うん、私が死ぬ時は勝家を抱いて死ぬから、勝家が死ぬ時は私を抱いていてね。」
勿論だと抱き締め返され悦に入っていれば、不意に聞こえたジングルベルの音楽に思わず顔を上げる。
「勝家、そう言えばクリスマスプレゼントに何が欲しい?」
もうすぐクリスマスだからと問い掛ければ言いにくそうに言葉を紡ぐ勝家。
「どうしても、欲しいモノはある……しかし言っても良いものなのか悩んでいる。」
その言葉に何でも言ってと言えば指と聞こえた。
「貴方の、唯一無二のその薬指が私は欲しい。」
そして貴方以外と約束を結ぶつもりのない私の薬指も貰って欲しいと言う勝家に、断る理由が無いよと笑えば嬉しそうに笑った。
「兄さんにホルマリン浸けにする方法を聞いておくね。」
兄さんに聞いたら「私に切らせて下さい」とか言いそうだなと思いながらも、勝家の指を切り落とす役は譲れないなと熱く心に誓う。
「こんぶ、貴方は何を望むのですか?」
勝家の言葉に貴方の全てが欲しいと笑えば、この身体に貴方のモノではない所は無いと言われた。
「うん、解ってるけど言ってみただけ。」
人には異常だと言われる私達…だけど気にしないし気にする必要も無いと思っているの。
だって、自分達が幸せならばそれで十分でしょう?
20141225.
柴田勝家とクリスマス
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