▼ 猿飛佐助と恋
「知ってるかい?今日って夏祭りがあるんだ」
夏休みに文化祭の準備をしているとき、前田の風来坊がそう言った。
「祭り...ってあの神社で?」
「そ!楽しみだな〜夏はやっぱり祭りだね!」
自分が看板の色塗りをしているなか、風来坊は器用に飾り付けの花を作っていた。
「俺様行ってみよっかなあ。どうせ真田の旦那も甘いもの目当てで行きそうだし」
「ははっ、そうだね!...そういえば、女の子と一緒に行ったりしないのかい?気になる女の子とかさあ」
その言葉に、どきり、とする。
一瞬手が止まってしまいそうになったが、作業を続けた。
「うーん、祭りで見つけちゃおっかなー」
得意の冗談を言ってごまかす。
噂話に敏感なこの風来坊に、まだ知られてはいないようだ。
「確かにいいかもねー!祭りのときは皆かわいいしね。まあでも、俺は孫市を誘ってみるよ!」
「あんた...まだあの人諦めてなかったの?」
「諦めないよ〜!だってもう、惚れちゃったんだしさ!...あ!まごいちー!!」
そう言うと、作りかけの花もほったらかし、どこかへ行ってしまった。
作業の手を止め、はあ、とため息をつく。
あれぐらいの、勇気があれば。
ひじきをちらりと見る。
かすがと一緒に、なにやら話していた。
いつからだろうか。彼女が特別な存在になったのは。
最初は、冗談も言い合えるような友達だった。
けれど、いつのまにかひじきを好きになっていた。
そうなってからは、いつもひじきのことを考えていた。
ここまで考えているのに、この気持ちを伝えられずにいた。
嫌われたり、フラれるのが怖い、と思っているせいだ。
情けない。自分らしくない。
もしかして、これが初恋ってやつ?
そういうキャラじゃないんだけどなあ、と自分を笑った。
***
あの後、いろいろ迷ったが祭りに行くことにした。
でも、目的もないのでただうろうろしている。
鳥居の近くまで行くと、人ごみの中に見慣れた人を見つけた。
「ひじきちゃんじゃん。なにしてんの?」
「佐助!」
ひじきは鳥居の前に、浴衣姿で佇んでいた。
「かすがと一緒に来てたんだけど...この人ごみではぐれちゃって...」
「まあ、たしかにね...。」
目の前を見ても、人だらけだった。
「浴衣、似合ってんね。ひじきちゃん超かわいい」
制服の彼女しか見たことがなかったから、浴衣姿は新鮮で、かわいかった。
「お世辞言ってもなんにもでないよ?でも、ありがと」
そう言って、ひじきは笑った。
お世辞じゃないけど、という言葉は飲み込んでしまった。
「ほんと、人多いね...これじゃ花火、見れないかも...」
「花火?」
「うん。今日花火があるらしいんだけど...」
ひじきは眉を八の字にさせた。
こんな顔もかわいい、と思うのはもう病気なんだろうか。
「俺様、いい場所知ってるけど?」
ほんとに!?とひじきはいい、笑顔になった。
「ほんとだよほんと。今まで俺様が嘘ついたことあった?」
「...信用できないんだけど」
「ひじきちゃんたらひどーい。ほら、こっちこっち」
「はいはーい」
裏道を通り、花火が見えやすい場所に移動する。
後ろを向くと、ひじきがついて来ている。
まるで、付き合っているみたいだ。
そう思ってしまう。
「着いたよー。俺様の秘密の場所」
人気が少なく、いい感じに開けた場所。
「わあ...たしかに、これならバッチリ見えそう!」
その言葉とほぼ同時に、花火が打ちあがった。
立ったまま花火に見とれ、ひじきは笑顔になっていた。
周りの人も、笑顔にしそうなほどの笑顔。
その笑顔が、大好きだ。
「佐助」
「なに?」
「ありがとう」
見たなかで一番綺麗な、俺様だけに向けた笑顔。
それは、反則。
「...好きだ」
「え?なんか言った?ごめん、花火で聞こえなくて...」
「...後で、言うよ。」
どかーん、とまた夜空に花が咲いた。
20140804.
猿飛佐助と恋/そぺ様
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