夏の恋 | ナノ


▼ 前田慶次と恋

恋だ愛だと言いながら、俺の恋は未だ来ない。

「俺だけの華、どこで咲いているんだい?」


もうじき花火が輝くであろう夜空を見上げ呟く。
祭りの日にらしくもない。騒ぎから離れた河原に来ていたのは、きっと、密かに期待していたのかもしれない。

ふと、人影が目に入った。
「あんたもこの穴場を知ってるのかい?」
「え?…あなたは」
振り返ったのはとても綺麗な瞳をした女人だった。
その瞳から目を反らせなくなる。
「あの、」
「…あ、ああ!俺は前田慶次!慶次でいいよ!あんたは?」
「私はひじき。花火を見に来たのです。ここはとても美しく見えますから。」

「ここは絶景だよ!ひじき、隣いいかい?」
「ええ。花火はもうすぐでしょう。今日は空も良いから、きっと素晴らしく輝くでしょうね。」

「そうだね!…おおおっ!始まった!……っ!」
「本当!……慶次、どうしました?」

夜空に広がる明るい青色。あの瞳を見たときのような感覚だ。

「いや、あんた、ひじきの瞳にそっくりでさ。魅とれちゃったよ。…さて!大一番は何色かな!」
不意にひじきが詰め寄った。
「…ふふ、慶次は嘘が下手なくせに誤魔化すのは上手いのね。」
「……!」
花火の音が鳴り響く中、まるで吸い込まれるような瞳で、見透かされた気がした。


「…あははっ!」
突然の事に声も出なかった。ひじきの笑い声と初めてみる笑顔だった。
戸惑いながらもその青色を見る。

「慶次は面白いわね。深く考えるのも良いけれど、今日は花火の美しさに酔いましょう?」

頬に手を添えられて、その余韻に何かに気付く。
「あなたの心には、花火は咲かないの?」
「…ひじき」

「私と話せば、その心は晴れますか、慶次。」

「…っ、ああ…!」

瞬間勢い良く立ち上がり、晴れ晴れとした声でひじきは言った。

「それじゃあ行きますよ慶次!夏はまだ始まったばかり、思いきり楽しむのよ!」

どん、と一番大きな音が響いた。
手を差しのべているひじきを飾るように、夜空には美しく大きな華。

ああ、この華はきっと_________

ひじきの手をとる。心も体も、とても軽かった。

「…ありがとな、ひじき。」

「?…慶次?」
これこそ、ずっと焦がれていた、

「夏にどどんと咲く!_____恋の華、ってね!」





20140804.
前田慶次と恋/千冬様

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