▼ 片倉小十郎と恋
「ん?これは…」
城下を見回り城へ帰る途中、ふと足を止めた俺の前に並ぶ賑やかな市
その一番端の店に飾ってあった品に俺は夏の訪れを感じた
『小十郎さまっ』
「ああ、ひじき。出迎えご苦労だな」
『そんな、ひじきが小十郎さまの帰りを待ちきれなかっただけです…あら?』
「どうした?」
『…何を、隠しているのですか?』
俺が門をくぐった瞬間、パタパタと駆け寄ってきたひじきがパッと笑顔で出迎えた
そして直ぐに不思議そうな顔となり、俺が片腕を隠した背中を覗き込もうとする。まったく、勘の鋭い奴だ
「城下の出店で見つけたんだ。奥州じゃそう見ねぇ、他の土地から来た物だろう」
『あ……』
俺がそれをひじきの前に掲げた瞬間、待ち構えていたかのように風が俺たちの間を吹き抜けた
そして風は伸びた短冊を巻き込み、揺らし、リンと清んだ音が響く。これは…
『風鈴…ですね、』
「ああ」
『綺麗な音…小さくて、それでも遠くまで響く音ですっ』
「気に入ったか?」
『はい、とても!』
小さな花の細工が入った風鈴。それを覗き込むひじきの表情は、面白いカラクリを与えられたガキのように輝いている
出店でこいつを見つけた瞬間にも風が吹き、音を響かせた。その時に浮かんだのがひじきの顔だ
『んんー……』
さっきの一度っきり鳴らない風鈴を眺め続けながら、首を傾け、次の風を待つひじき
だが我慢しきれなかったんだろう。ふいにその小さな唇を尖らせ、風鈴に向かいふっと息を吹き掛けた
するとさっきよりも鈍く、だが確かにあの響く音を出した風鈴。それにへにゃりと、ひじきが笑う
『夏の音ですっ』
「そうだな、俺もそう思って買った。部屋に飾るか」
『もっと風通しのいい縁側にしましょう!城の方々にもこの音が届くようにっ』
「…ははっ、独り占めは意地悪ってか。分かった、他の連中の目と耳に届く場所を探そう」
『はいっ』
よく風を受けるよう高い所に吊し、皆に夏を伝えようじゃねぇか
『あ……』
ほらみろ、また夏が鳴った
20140730.
片倉小十郎/ゆつき
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