夏の恋 | ナノ


▼ 大谷吉継と恋

「……あーぁ、祭り行きたかったなぁ……。」

友人と約束していた祭りの喧騒を聞きながら、ひじきは頼まれた物を運んでいた。
城の廊下からも、祭りの灯りはよく見える。
きっと今頃、皆祭りを楽しんでいるだろう。

「……お待たせしました。」
「……左様か。
なれば、ちと我を手伝いやれ。」
「え……っと、何をすれば……?」
「いやなに、我のこの手では、封が切れなくてなァ?」

そう言いながら、包帯を巻き付けた手が、大量の書を渡してきた。
祭りに行く予定だったひじきをここに引き留めている張本人、大谷吉継その人だ。

分かりました、と一つ頷いたひじきが、封を切っていく音と、紙の音、そして祭りの喧騒が聞こえるだけで、二人とも何も喋らない。

「……ひじき、」
「はい?」

作業に没頭していると、彼はいつの間にか筆を置き、窓辺りに寄っていた。
そして、怪訝な顔をするひじきを手招きするのだ。

「どうかしましたか……、っ!?」
「ヒッ、……頃合いか。」

腹に響く音と共に、窓の向こうに広がるのは、色とりどりの大輪の華々。

「……凄い……。」
「ここならば、よく見えるであろ?
我のトクトウセキよ。」

上を見上げて首が痛くなることも無い。
周りに押され、倒れそうになることも無い。
そして、視界を遮るものも無い。

彼の言う通り、ここは特等席だった。

「……主と、見たかった。」
「……え?」
「主から、友と過ごす祭りの時間を奪ってでも、我は、主とこの時間を過ごしたかった。」

小さな声でそう言った彼の瞳は、普段の落ち着きが考えられないほど、あちらこちらとさ迷っている。
暗がりでよく見えないが、きっとその顔は真っ赤に染まっているだろう。

そう思うと、不思議と笑いが込み上げてくる。

「……花火も直に終わるであろ。
これが終われば主は城下にでも、」
「吉継様と一緒なら、私も祭りに行くのですが……。」

恐らく、祭りに行けば良い、と言いかけた彼の言葉を遮って、ひじきは首をかしげて見せた。
ちょっとした悪戯だ。

「……はて、我は城下には行けぬなァ……。
仕方ない、我と共に、今しばらく執務に勤しむとしようか。」
「……なっ!?嫌です、祭りに……、」
「ならぬ。
主は我と執務をするウンメイよ。
……不幸な事になァ?」

やり返された、と気付いた時にはもう遅い。

「我は、主と共にあるなら何でも良い……。」

そう嬉しそうに言われては、ひじきに頷く以外の選択肢など、あるわけがなかった。



20140727.
大谷吉継/彩様

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