夏の恋 | ナノ


▼ 黒田官兵衛と恋

私にとって夏というものは、白い部屋の中で過ごすこと。
というか、どの季節でも白い部屋が私の世界で、すべてだった。

でも、ある日、すべてが変わった。
病弱な私の前に、ある人が現れてから。いつの間にか、私は外での生活が許されるほどになっていた。

そして現在。

「なんでここにいるんだ…」

私はまた、白い部屋にいた。


「お前さん、本当に病弱だな。」

「うう〜…うるさい!好きでそうなってるんじゃないもの!おじさんだって運悪いくせに!!」

「なっ…!?今それ関係ないだろ!?」

そう言って声を荒げたのは官兵衛さん。
見舞いに来てくれたらしい。でも、どうせこのおじさん暇なんだよね。

「小生だってなぁ、用事の一つや二つ…!」

「はいはい。わかった、わかった。」

「お前さん、わかってないだろ…。」

訝しげにするおじさん。
おじさんの反応が楽しくて、ついからかってしまう。

いつもならもう少しからかって遊ぶのだが、今日は無理だった。
はしゃぎすぎたせいか、少しひどめに咳こむ。

「ごほっ、っは、…っぅ、がっ…」

「おい!大丈夫か!?」

咳き込む私の背中をさする官兵衛さん。
彼の大きな手が触れると、安心する。
少しずつ、軽くなっていくような気がした。

「お前さん、はしゃぎすぎだ。ちゃんと休まんと、治るもんも治らん。」

心配そうな顔をする官兵衛さん。
そんな顔、してほしくはないのに。

「おじさん。」

「なんだ?病弱娘。」

「…。」

「?どうした、また苦しいのか?」

「りんご食べたい。」

そう言うと、ぽかん、と惚けた表情を浮かべる官兵衛さん。
すぐに笑い出し、私の頭を撫でてから、大きい体に似合わず、随分と器用にりんごを剥き始める。

そんな姿を見ながら、小さく笑う。
でも、すぐ表情を戻す。

白い部屋で長く生活しすぎて、感情をうまく伝えられなくなった。いや、元々そうだったのかもしれない。
そんな偏屈で、無愛想な私でも、官兵衛さんは一緒にいてくれる。
官兵衛さんのこと、あんまり名前で呼べないけど。さっきの話の逸らし方も、全然うまくなくないけど。子供っぽいけど。

でも、それでも、

「官兵衛さん」

「…!…なんだ?」

名前呼び、そんなに久しぶりだったのか。
少し驚いたように顔をあげる官兵衛さん。

「…ありがとう。」

「…なんだ、随分素直じゃないか。」

「…おじさん、やっぱり一言多いよ。」


そのまま布団に潜り込むと、その上から撫でられる感触がした。

「ひじき。それは、小生の台詞だ。」

「…。」

もぞり、と布団から顔を出す。
官兵衛さんは、微笑んでいた。

「…か、」

声をかけようとすると、部屋のドアが開く。

「ひじきちゃん?」

看護師さんだった。
彼女は慣れた手つきで電気をつける。

「ひじきちゃん。また電気を消してるの?それに、」


誰と、話してたの?


「…ひみつ。」

官兵衛さんは、りんごを切り終えていた。





20140830.
黒田官兵衛と恋/まほろ様

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