心臓をとめたい(モブ出?)



☆事務所の元先輩に迫られる出久くんを助けるスパダリ俊典、のつもりが出久くん強すぎて俊典が出てきませんでした。書きたいところまで書いたので、短いし途中でブツ切り。



◇◇



 呼び止めてきた男が誰だったか、記憶の底をあさる。出久の脳裏にはいくつかの選択肢が浮かんでいたけれど、結局そのどれにも当てはまらなかった。顔には見覚えがあるような、ないような、とにかくハッキリとしない。ただ、声には何となく聞き覚えがある。長身で筋肉質な身体、逆立てた金髪の毛のヤンキー然とした見た目には、なんとも不釣り合いな高音だ。あまりにも特徴的な人物だが、奥底に沈んだ記憶を引き揚げるには少し頼りない。
 そもそも夕日の傾いた薄暗い裏路地の真ん中で「おい」なんて呼び掛けをしてくる人間は、控えめに言ってもあまりマトモな部類ではないだろう。出久はヒーロースーツをしまい込んだリュックの肩紐をギュッと握りしめると、暗がりからヨタヨタと歩いてくる男に対して身構えた。敵意や殺気は感じられないが、ツンとしたアルコール臭が鼻を突く。

「俺だよ、俺」

 詐欺だろうか。男が一歩近づく度に、出久は一歩後退った。人を見た目で判断するなとはよくいうが、色を抜きすぎて傷んだ金髪と青白い隈にフチ取られた眼、その奥の澱んだ青い目玉とカサついた唇に、ヒーローとしての勘が働く。

「ほら……三ヶ月前まで同じ事務所にいたじゃん」

 出久は「あ」と言って多少は太くなった記憶の糸をズルズルと引き揚げた。そうだ。確か、三ヶ月前に事務所を辞めた先輩サイドキックがいて、記憶の中の彼はいつでもヒーロースーツでマスクを被っていた。シフトも違うしプライベートで会うこともなかったので、出久は彼の素顔を知らない。挨拶はしていたと思うけれど、会話をした事はあっただろうか。それすらも曖昧だったが、その甲高い声だけは妙に耳の奥底にこびりついていた。
 男は酔っ払いのような頼りない足取りなのにズンズンと歩いてくるので、出久のリュックはいつの間にか背後の壁にトンッとぶつかっていた。これ以上は退れない。百八十センチをゆうに越えている長身がグッと身を乗り出して、出久の顔に影をつくる。男の息遣いは荒い。出久は微かに膝を落とし、右手のひらをピタリと壁にはり付けた。出久を見下ろす血走った目に正気の色は確認できない。

「デク、だよな。ひさしぶり。へへ……こんなところで会えるなんてラッキーだなぁ……な?」

 同意を求めるな。という気持ちを込めて、出久は「急いでるんです」と言葉を返した。

「なんだよ……つれねぇな」

 骨ばったデカいだけの手が出久の両肩をガッシリと掴んだ。指先が肉を抉りそうなほどに食い込んで、骨がミシミシと音を立てる。出久が痛そうに眉を顰めると男は嬉しそうにニタニタと笑った。はァ、と吐かれた男の息は生臭い。出久は顔を背けた。すると男の右手はするすると肩から二の腕におりていき、しばらくするとリュックと身体の間に差し込まれる。

「えらい童顔だよなぁ……おれずっと思ってたんだよ……ガキみてえじゃねーかって……」

 男の話には脈絡がない。

「な、なぁ……おれ……ガキみてぇなやつ見ると堪らなくなんだよ……。法ってやつは面倒だよな……でもよ、デク、おまえガキみてぇなツラしてるけど……合法だもんな……な……?」

 だから同意を求めるな、と出久は男を突っぱねた。

「僕、急いでるんです」

 壁についた手を軸にして、地面を蹴り上げた勢いを殺さずに両足を男の首に回す。そのままグルンと体勢を入れ替え、男の身体をコンクリートへと打ち付けた。すかさず黒鞭を使って倒れ込んだ巨体を縛り上げる。

「待ち合わせ場所に向かう前に、あなたを警察に突き出さなきゃいけないから」

「ぐっ、ぅ……」

「違法薬物? その目……充血どころか、血の塊を押し込んだみたいだ……」



◇◇

時空はプロヒ

【題】心臓を止めたい
【帯】調子付くから優しくしなくていいよ
【書き出し】呼び止めてきた男が誰だったか、記憶の底をあさる です
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