さむっ(オル出)



☆くっついているオル出inベッドルーム。たぶん同棲プロヒ時空だと思われる。短文です。



◇◇



 目が覚めてすぐにブルッと身体が震えた。眠たくて重い瞼を無理やり持ち上げる前に、その冷たさが爪先から沁みてくることに気づいた出久は、ぐぐっと足の指を丸めてみる。氷のように冷たい。おかしい。
 どうしてか、身体がはみ出さないようにと購入した大きめの羽毛布団が機能していないのだ。ぼんやりとした意識がずるずると引き戻される。出久の背中にはピッタリと隙間なく“何か”が張りついていた。そのおかげか、足の先は死ぬほど冷たいのに、背中はぬくぬくと温かい。モゾモゾと身体を動かせば、後ろにある塊が「ンンッ」と唸った。穏やかな声だ。出久の腹の辺りに回されていた長い腕にギュッと締め付けられる。寝返りが打てない。

 出久の後ろを陣取るその人は、たとえ寝惚けていたとしても寝室を間違えるようなタイプでは無いので、これはワザとだろうと見当がついた。昨日はとくべつ寒い夜でもなかったけれど、プライベートルームと銘打って分けた寝室に侵入してるくらいだから、きっと何か思うところがあったのだろう。

「……いずくくん」

「おはようございます。起きてますよ」

「ん……おはよう……」

 ふいに感じたこそばゆさに身をよじった。首筋に額をあてられている。彼の長い前髪が出久の一番弱いところをくすぐって、ぞわぞわとした感覚が体内を駆け巡った。朝なのに変な気分になる。しかし、ここで変な声を出すのも嫌だったので、出久は唇を噛み締めて耐えた。変わりに腹筋が震えたけれど、後ろの抱っこおばけはそれを寒さによる震えだと思ったようで、さらに強い力を込めて抱きしめてくる。悪くはない、が、ちょっとあつい。出久は首を少し傾けて「俊典さん」と、彼の名前を呼んだ。

「朝ごはん、僕がつくります」

「だいじょうぶ……起きたら、わたしが……」

 “寝惚けているオールマイト”なんて、とんでもなくレアだ。ガチャでいうとSSRとか、URとか、誰もがこぞって課金するレベルのレアリティ。貴重すぎて、こんな所で寝転んでる暇があるなら写真を額に入れて拝み倒したいくらいである。でも寝惚けている恋人の姿は、出久にとっては珍しくもなんともない。二人きりの時に見せてくれる素の表情が、出久は何よりも好きだった。
 ふにゃふにゃしていて、可愛らしい、と思う。ただ、それを言ったら彼はムキになって「君の方が可愛い」と言い返してくるので、出久は心の中に大事にしまっておくのだ。

「たまごやき、作れますよ。練習したので……甘いやつ、焦がさなくなったし……。あと、パンも昨日買ったやつが……」

「んー……うん。うん……」

「……もう少し寝る?」

「うん……」

 拘束する力が緩んだので、ゴロンと寝返りを打った。視線が合わないのは残念だったけれど、むにゃむにゃとした口元が可愛らしいので良しとしよう。出久は上の方にずり上がって、眠ったままの俊典と向かい合った。彼と正面から向き合えるのは、浮遊している時か、座っている時か、ベッドに転がっている時だけだ。身長の差があり過ぎて、立っていると胸元しか見えない。
 頭を持ち上げて、目尻にうっすらと線を引くシワに唇で触れてみる。少し「うっ」と唸っただけで、彼の瞳は閉ざされたままだ。調子に乗って、二度、三度と繰り返してみる。キスをするたびに「うっ、んっ、」と声を漏らす姿があまりにも可愛らしくて、出久はじたばたと足を動かした。

「……すき」

「それは嬉しいな」

「ンッ?!」

「おはよう出久くん。いい朝だね」

 ばちりと目が合った。青い双眸に射抜かれて、出久の腹の奥がブルッと震える。これは寒さでも緊張でもなく、まして変な気分になったからでもなく、単なる羞恥心によるものだ。微睡みの欠片もなくニコニコと笑う俊典は「本当にいい朝だな」と呟いて、石化してしまった出久の頬を中指で撫でる。

「いたずら、楽しかった?」

「たっ、たた、たのし……いっていうか、その、」

「私は楽しかった」

「へあっ?! オキテタ、イツカラ……?」

 俊典はより一層ニッコリと笑った。

「あれだけ熱心にキスされたら、さすがに目も覚めるさ!」

「へ、へー……」

 逃げようとしたが抱き寄せられた。向かい合った事で隙間のできていた身体が、再びピタッと密着する。パジャマ越しの骨ばった胸、肋骨の間から、駆け足の心拍数が出久の鼓膜を優しく叩いた。あわわ……と焦れば、今度はグリッと膝に押し付けられる熱の塊に「ひえっ」と声が漏れる。

「朝からオジサンを興奮させるなんて、悪い子だね」

「お、おじさんじゃ……」

「朝食は私が作ってあげるから、ちょっとだけオジサンに付き合って?」

「おじさんじゃないですぅ……」

 ううっ、と両手で顔を覆う出久の耳は真っ赤に染まっていた。




◇◇


(お互いにお互いのこと可愛いって思ってる二人はかわいい)




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