『待ってよお、兄さん…っ』
『ったく、仕方ないなあ。ほら、』

懐かしい懐かしい過去の記憶。いつも思い出すのは兄の笑顔だった。嗚呼、その笑顔が憎いニクイにくい!



.夢に見るあの姿は



「ヒューバート」

遠くに見えるエフィネアを眺めていた自分の弟の名をアスベルは静かに呼ぶ。そして微笑みながら彼の隣に立つ。それはあまりにも普通でただの仲のいい兄弟といった感じだった。シェリアとソフィはエメロードに何かの説明を受けているようだし、パスカルとマリクは指輪を見ながら何かを話し合っていたりとこちらの様子は気付いていないようだ。ヒューバートはアスベルのほうに視線だけやると軽く息をつく。

「何ですか」
「いや、さ。お前だけ1人だったから」
「それは兄さんも同じでしょう」

そうなんだけどな、とアスベルは苦笑した。ヒューバートの横で同じように月のように見える青い星を眺める。リチャードは今何をしているのだろう?ラムダは今もエフィネアを蝕んでいるのだろうか。そんなことが頭の中をぐるぐると回っていた。

「兄さんが…」
「ん?」
「……羨ましかった。やっぱり長男だったからラントに残れたんだなと思うと」
「ヒューバート…」

幼い頃、自分が養子に行くなんて考えたことなかったし、いつもの生活が当たり前のように続くと思っていたあの頃。オズウェルに連れて行かれたときの気持ちは今でも忘れない。ラントの家族が憎かった。

「もしぼくが長男だったら兄さんがオズウェルに行っていたんでしょうか」

長年そう思い続けてきた。そう、長男だったら、僕が兄だったなら。

「…どうだろう」

アスベルは首を傾げると少し眉を下げた。

「でも、嫌だな」
「え?」
「誰が何と言おうとヒューバートは俺の弟だ。誰にも渡さない」

笑みは消え、真面目な顔でアスベルはヒューバートを向いた。彼は少し驚いたようにアスベルを見る。アスベルの左手は弟の頬へと伸びていた。

「ヒューバート、お前はやっぱり俺のこと嫌いなのか?」
「……。」
「俺は…お前のこと好きなんだけどな」

苦笑混じりにアスベルは言った。それは恐らく家族としての筈なのに。

「……ッ」

変に考えてしまう自分に腹が立ってしまう。違う、違う違う!少し頬を赤くしたヒューバートを見てアスベルはきょとんとすると一瞬黒い笑みを見せた。

「ヒューバート?」
「な、何ですかっ」
「お前は俺の弟だろ?」
「そうですね」

だから?とも言いたげにヒューバートは言い切る。それに満足したのだろうか。
アスベルは無言で満面の笑みを浮かべた。それはいつも思い出す、兄の笑顔。その笑顔が辛くてヒューバートは顔を背けた。嫌だ、この笑顔は嫌だ。

「そう。ヒューバートは俺の弟!その事実は変わらないんだ。例え違う場所に居ても、…片方が片方を恨んでいても」
「……っ…」

ヒューバートの反応があまりにも予想通りでアスベルは心の中で溜め息をついた。大切な人に憎まれてるなんて辛い。

「ヒュー「でも…っ」

アスベルの言葉を遮ってヒューバートは口を挟む。眼鏡を直して手で眼を隠しながら。

「何だかんだ言っても兄さんの笑顔が好きな自分はどこかにいたり…したんですよね…」
「!」

少し照れて視線をそらすヒューバートは、ふいと顔を背けてしまう。それが何だか嬉しくてアスベルは無意識に笑顔になった。

大好きだ!

勢いよく抱きつくまであともう少し。





最終的に何がやりたかったのか自分でもわかりません
ラント兄弟大好き!




2010.6.10



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