エスカ、エスカ
白がかったぼやけた庭先で誰かが呼んでいる。あれは誰だっけ。思考ができない。体が宙に浮いているような感覚。
誰かは俺に手を振っていた。そして脇に抱えていた何かを蹴りあげた。サッカーボールだ。
反射的に足元にパスされたボールをインサイドで受け止める。蹴ってきた誰かを見つめると顔は認識できないが、微かに笑ったようだった。
なぁエスカ
誰かは言う。次の瞬間漂っていた白が消えた。俺の視界もはっきりする。そうだあれは、

「サッカーやろうぜ!」

兄ちゃん、だ










けたたましい音が鼓膜を容赦なく攻撃する。俺は体を起こして携帯のアラーム機能を止めた。
懐かしい夢を見た。
兄は五年前家を出て行った。
家族とは喧嘩別れだった。サッカーを愛していた兄はよく父親とぶつかっていた。スポーツバックとサッカーボールだけを抱えて家を出て行った兄の背中は未だに鮮明に覚えている。
どうして。疑問だけが残った。
兄は俺なんかよりずっと才能があってずっと周りから期待されていた。少しお人よしな所はあったが何より国のことを考え家族のことも多分、誰より大切に思っていたと思う。
その兄が家を出た。
期待は俺に向けられた。
苦しかった。痛かった。逃げ出したかった。兄を憎んだ。結局兄はこの苦しみが嫌でサッカーなんかに逃げたのだと思った。
寝汗が酷い。
ベッドから抜け出してシャワーを浴びに風呂に向かおうとしたとき、ドアをノックする音がした。



























(110512)
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