「あ」

辺見渡は忙しなくノートに滑らせていたシャーペンを持つ手を止めた。
方程式が間違っていた。今まで順調なペースでやってきた春休みの課題集ではじめてケアレスミスをしてしまった。
そこでぷつんと辺見の集中力は切れた。消しゴムでクラスメイトに女みたいだと比喩された丸文字の羅列を消していく
もうやる気になれず、辺見は机から顔を離しため息をつくと、ベットの上で充電器が刺さったままの携帯を取るために席を立った



メール1件


携帯を開くとディスプレイにはファンのサッカー選手の待受、その画像の上に控えめに被さる文字。
全く気付かなかった。
辺見はベットに仰向けで寝転がりながらメールを開いた。


03/20 20:27
From 咲山修二


辺見はぎょっとし急いでメールを開く。メールの本文には一言



『会いたい』





辺見は唖然とし、携帯の右上の時刻を確認する
20時56分。
辺見は慌てて返信を送った。
なんでだよ
少し素っ気なかったかもしれない。だがこの文面は自分らしい。辺見は携帯を閉じて目をつむる。すると直ぐに着メロが響いた。サブディスプレイには受話器の絵文字。
辺見は携帯を開き受話器ボタンを押してそれを耳に押し当てた

「もしもし」
『電話しちゃった』
「別にいいけど…何だよ会いたいって」
『会いたかったから』
「…お前今どこ?」
『家の前』
「は?」
『だから、』


辺見の耳に救急車の音が届いた
どうやら家の近くに救急車が来ているらしい。あの特徴的なサイレンが、電話越しからも聞こえた。まさか



『辺見の家の前』





辺見は携帯を充電器から引き抜き、ダウンジャケットを着込んで部屋から飛び出した
母親が名前を呼んでいたが辺見は返事をする余裕がなかった
階段を駆け降りて玄関の扉を開けた。
瞬間縮こまるような冷気が辺見の体を襲った。
玄関の扉を閉め、駆け足で石畳を進み花がモチーフになっている鉄製の門を開けた。
真っ白い息を吐きながら辺見は辺りを見回す。この辺は中々裕福な住宅街だから街灯は充分な程ある。しかし、咲山の姿は見当たらない。
携帯を見るとまだ電話は繋がっている。辺見は荒く白い息を吐きながら冷たい携帯を耳に押し当てる


「おいコラ」
『冗談に決まってんじゃん』
「っ…てめッ…!」


一気に頭に血が登り怒鳴りつけそうになった辺見は、家を囲む塀を曲がって来る人影を見つけ息を詰めた
そうだ、だって、救急車のサイレンが




「こんばんは」


電話はブチリと切れ、辺見はゆっくりと携帯を持つ腕を下ろした。
目の前にはスウェットに健康サンダルと田舎の不良の見本のような格好をした咲山が立っていた。
ご丁寧にマフラーを巻いて鼻は真っ赤、白い息が上がって咲山はこちらに向かって歩いて来る。
辺見はぽかんと咲山を眺めている。咲山は何も反応がない辺見にむっとして、冷えた唇で辺見に口づけた。

「辺見」
「お、ま…」
「彼氏がわざわざ会いに来たのに何その反応」
「だっ…………て、」

辺見は視線をぎこちなく漂わせたあと、戸惑うように唇を開いた。ああ顔が熱い。

「お前、かっこつけすぎ」






















(110330)
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