米英前提







「酷い人ですね」

菊は黒い瞳を伏せて感情の読めない表情をした。アーサーはその顔を見慣れていたし、菊もきっとそれをわかっている。

「…あいつが?」
「そう、あの方が。」

アーサーは冷めはじめている日本茶が入った茶碗をちゃぶ台に静かに乗せた。
菊は茶をすすりながら庭の方に目をやる。時間が進むのがゆっくりだ。アーサーはそんな菊の顔を盗み見る。

「菊…」
「はい、何でしょう?」
「俺…やっぱあいつに謝ってくる…」
「貴方は悪くないのに?」
「でも…嫌だから…」

アーサーは傷付いているようだった。菊は苦笑する。彼はとても純粋で心配性で、あの男を酷く愛しているのだ。
だから菊は嫉妬する。今回だってあの男がアーサーを傷付けたのだ。しかしアーサーはそれよりあの男に対し怒鳴ったことについて傷付いている。

「アーサーさん」

アーサーのちゃぶ台の上に乗せた白く骨張った手に菊は己の手を重ねる。
アーサーは目を見張る。キラキラ、碧色の瞳が菊の暗い漆黒を映す。

「もう…いいではありませんか」


途端アーサーは泣きそうに目を細めた。可愛らしい。菊は笑みを零す。
あの時彼も、あの黒みを帯びた赤黄色をこんな風に細めていた。

―…兄様

菊は口だけで囁いた。
アーサーには聞こえない。唇が重なったとき、全てが終わったような気がした。















そして日中前提
(110328)
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