円堂はずるい。豪炎寺は呟く。円堂は薄く笑ってとぼけてみせた。豪炎寺は忌ま忌まし気に円堂を見る。教室には二人しかいなかった。
俺を好きなの?
わからない。
豪炎寺は目を逸らす。円堂の問い掛けに豪炎寺は答えない。円堂はそっかと笑ったあと、帰ろうといつもの笑顔で豪炎寺に言った。




それだけ。
十年前、円堂と豪炎寺の間にある秘密の思い出というものはそれだけだった。
円堂は豪炎寺が円堂を好きだと知っていた。知っていて何も言わなかった。知らないふりをしていた。
それでよかった。それで、
なのに今更、今更だ。本当に。だから豪炎寺は酷く泣きたくなるのだ。

「不倫になるのかな」
「……」
「でも罪悪感はないんだよ。酷い旦那だよな、俺」
「…もう、帰れ」
「なんで?」

円堂はたくましくなった腕で背を向けて寝る豪炎寺の体を抱いた。

「豪炎寺」

囁かれて豪炎寺は泣きたくなる。酷い男だ。

「怒んなよ」
「もう…やめてくれ…」

豪炎寺は震える声で訴える。円堂は豪炎寺をどうしたいのだろう。わからない。豪炎寺は何もわからない。

「円堂…お前…何がしたいんだよ…」
「何…?」
「お前…俺をどうしたいんだよ……」

円堂は黙る。ただ静かに豪炎寺の体を抱き寄せて、豪炎寺の泣きそうな顔を覗き込んだ。
その顔は、この上なく幸せそうな笑顔で、豪炎寺は訳がわからなくなってしまう。

「え…ん……」
「俺はな、豪炎寺」



「お前のすべてを奪いたかった。」


「…誰…から…」
「誰?そりゃあ…」









お前の中の綺麗な俺から。



豪炎寺は目を見張る。円堂は笑う。もうそれは、あの日の円堂の笑顔ではなかった。

















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