春。ソメイヨシノと言ったか、レンガ畳の桜並木を男は走っていた。薄桃色の花びらが風に舞って視界を遮る。少女のような男はジャケットを翻しきっちりと閉じられてしまっている鋼鉄の門を飛び越えた。失態だった。この俺が寝坊をするだなんて。男は敷地内に侵入すると端末を取り出し時刻を確認する。完全に一限は始まってしまっている。男…ミストレは舌打ちをひとつ。後々めんどくさいことになる。ミストレはあの堅苦しい銀髪の我等がNo.1様を思い出し肩を下ろした。
こうなってしまうと全くやる気が起きない。帰って惰眠でも貪ろうと校舎に背を向けようとしたとき、校舎の影からスカートの裾が見えた。一旦こちらに来たがミストレがいたから踵を返したらしい。
ミストレはにまりと桜色の唇に笑みを浮かべた。この学園にミストレに思いを寄せる女生徒は腐るほどいるのだ。きっとあの女もその内の一人だろう。手を取って耳にいくつか甘い囁きを吹き掛ければ女なんか直ぐ落ちる。
ミストレは少女が消えた校舎の影に歩み寄った。
風に桜の樹がごうごうと揺れて花びらが可哀相な程空へ舞い散る。桜吹雪に目を細めてながら背を向けて歩く少女の腕を掴んだ。


「―…ねぇ、君―――」


制服と絹の手袋の間から覗く少女の肌は少し日に焼け、スカートからスラリと伸びる足は妙に骨張っていた髪は短く切られていて、振り向いた顔は…
とてもミストレが好んで口説くようなタイプではなかった。


「……何?」


少女は三白眼を訝しげに細めミストレを睨みつけている。少女はミストレより少し背が低いくらいである。
ミストレは少女の予想外の反応にぽかんと彼女の顔を眺めた。

「用がないなら離せ。急いでるんだが」
「…え……君今さ、俺のこと見てた…」
「はぁ?あんた自意識過剰すぎ。誰がいつどこであんたの事見てたんだよ」

「おーいエスカバー!」
「あっ…悪いサンダユウ今行く!…じゃあな女顔」


少女は遠めから声をかけていたクラスメイトらしき少年に答えると自分の腕を掴むミストレの白く細い手を振りほどいた。
どうやら移動教室らしい。少女はスカートを翻して駆け足で去っていった。

残されたミストレは桜吹雪の中踏みにじられたプライドに打ち震えていた。生まれて初めてだ女にあんな扱いを受けたのは。

「っ…!あんの…クソアマァアアア!!」


ミストレの叫びは暖かい春の風に飛んで消えた。




この後ミストレがバダップにこっぴどく叱られ、あの少女と恋に落ちるのはまた別の話。



















(110326)
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