「あ…」
「…こんにちは、牧野さん」
「こんにちは、宮田さん」

宮田は牧野が嫌いであった。
理由は様々だが何しろ牧野は宮田を苦手としている。それは鈍感な村人も熟知しているし、宮田は自分が他人から好かれる性分ではないことは理解している。
今日はついていなかった。
村人の老人が不調を訴え今しがた自宅へ診察に行ってきたばかりだった。老人の相手は疲れるのだ。病院にすぐ帰って恋人の煎れた珈琲でも飲んで休もうと思っていたというのに。

はぁ、と宮田はあからさまに溜息をつく。
さっさと帰ればいいのだが生憎方向が同じだった。必然的に嫌でも一緒に歩かなくてはならない。

チラ、と牧野の視線と宮田の視線がぶつかる。
牧野は慌てて顔を背け持っていたかごを抱え直した
宮田は確実にイライラしていた。我慢は得意な筈だった。しかし何故だか牧野の前ではすぐに態度にでてしまう。
それではまるで思い通りにならない事に理不尽に腹を立てる子供だ。

思い通りにならない?

違う。宮田はハッとする
太陽がキラキラと草木に反射している。
宮田は牧野が嫌いだった。
だから、横で少し小さくなりながら歩く牧野の姿は錯覚なのだ。
彼の姿が宮田の目にあんなに美しく映る筈がないのだ。
今日は全くついていない。


















(110319)
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