ここ最近毎日毎日飽きもせず池袋駅前に立っている長身の男は、この寒空の下バーテン服に防寒具はマフラーだけ。とても見ていられるもんじゃない。
俺は今日遂にしびれを切らして彼に声をかけた。
誰を待っているのか尋ねると、彼は鼻を赤くして小さな声で「運命の人」と呟いた。
なんともロマンチックな話じゃないか。俺は着ていた上着を彼に着せ、「来るといいね」と社交辞令をひとつ。
彼が微かに笑うのを見て、俺は池袋を後にする
彼の微笑みが天使みたいに可愛くて、俺は胸が踊るように軽くなったのを感じた



「まだ現れない?」
「…あぁ」

この間の、と彼は俺の顔を見て微かに微笑んだ。
その微笑みがやっぱり可愛くて、少しばかり頬に熱が集まる感じがした。
今日も雪が降っていた


「そういえば名前聞いてなかったね。俺は六臂。呼び捨てでいいよ」
「月島。…凄い名前だな」
「ははっ!まぁね」

二人して暗い雪空を見上げる
月島はマフラーに綺麗な作りの顔を埋めて直ぐに地面に視線を落とした
その顔が少し淋しそうで、俺はこんな彼を待たせる運命の人とやらに嫉妬した。次の日も次の日も月島は立っていた。
もう三月に入ったというのに気温は低いままで、今日はみぞれ混じりの雨が降っている
遠めから見る月島は本当に浮世離れしていた
運命の人とやらは、あんな美しい彼を放っておいてどこで油を売っているのだろうか。
こんなことなら、こんなことなら!


「月島!」
「!…よぉ」

柄にもない大声で月島を呼ぶと、彼は目を丸くしてから、あの微かな笑みを零した。
今日も寒さで彼の鼻は赤い。
俺は月島の手を掴んだ。が、余りの冷たさに唖然とする。月島の顔を見上げると彼は不思議そうに俺を見つめていた。
我慢の限界だった。


「どうした…?」
「…君さ、いつまで待ってんの?」
「何…」
「君をこんな寒空の下にほっとくような奴を、いつまで待ってるのかって言ってんの!」


持っていた傘を投げた後両手で月島の冷え切った掌を握りしめ、声を張った。駅前にいる人々がこちらに好奇の目を向けていたが、知ったことか。
俺の言葉に月島は大きく目を見開いて(こんな顔は初めてみた)、そして困ったように眉を下げて笑う。彼は直ぐに笑う癖があるようだ。
彼は俺に返す言葉を探しているようだった。俺は心臓がわしづかみにされたように苦しくなる。俺は彼の冷たい掌を更に握りしめ、意を決して言葉を絞り出す


「俺じゃ…駄目なのかな…?」
「…六臂」
「俺がッ…!っ…君の…運命の人じゃ…駄目なのかな…!」


月島の顔が見れない月島は何も言わなかった。
みぞれが雪に変わっていく
月島は、




「………待ってた」




小さく、小さくだが月島はそう呟いた。
え、と俺は月島の顔を凝視する。月島は、今まで見たこともない笑顔を浮かべていた。



「ずっと、待ってた。」




俺の、運命の人










彼の掌は、もう冷たくはなかった

















(110309)
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