ざざん、ざざん
寒空の下臨也は砂で汚れたコンクリートの階段に座り込み、海を眺めていた。
空の色は薄く、海も色味がない。臨也は肌寒さに震え、マフラーに顔を埋めた。


「おとうさん!」


後ろで高い幼い声が聞こえた。
臨也が振り返る前に背中に軽い衝撃があった。臨也は笑って幼い身体を抱き上げた。

「なぁに?どうした?」
「なにしてたの!?」
「んー?」

少年は父親の膝に座り色味を失った海を見た。
臨也は子供の色素の薄い毛を撫でる。子供はくすぐったそうに身を捩った

「しず、お母さんは?」
「いるよ!」

子供は後ろを振り返り、父親の肩越しに母親に手を振った
微かに香る煙草の香りに臨也も釣られるように振り返る

「……やぁ」
「やぁじゃねぇよ。静也、風邪引くからこれ着ろ」

母親は煙草をくわえながら子供の小さい上着を臨也の膝に座る息子に着せた。
母親は笑う息子の頭を優しく撫でた。そして夫の横に砂を払って座った。

「何してたんだよ」
「静也と同じこと聞くんだね、シズちゃん」
「うるせぇよ」

臨也は静也を後ろから抱きしめながら静雄を見つめる。
肌寒い風邪に紫煙が流れていく。

「昔のこと、思い出してた」
「…ん、だよ。昔って」
「なぁに?なぁに!?」

静雄は驚きに目を見開き、そして平静を装って訝しむ。
臨也はクスクスと笑って静也の肩に顎を乗せた。

「静也、この海岸は、お父さんがお母さんにプロポーズした場所なんだ」
「プロポーズって?」
「結婚して下さいってお願いすることだよ」
「ふぅーん」

静也はぱたぱたと足をばたつかせ、臨也は静也を離した。
静也はきゃっきゃと砂浜を走っていった。

「しずー!あんまり遠く行っちゃ駄目だよー!」
「うーん!」

臨也は息子のはしゃぐ姿に微笑み、隣にいる静雄を見つめた。

「…何赤くなってんの」
「なってねぇよ!」
「嘘」


静雄が煙草を口から離し怒鳴った瞬間、臨也は塞ぐようにキスをした。
たまたま見てしまった静也は慌てて目を小さな手で塞いだ。

「あの時みたいに、真っ赤になってる」

静雄はとたん泣きそうな顔をして、臨也の肩口に顔を埋めた。
空にはまだ、色は戻らない。














(110225)

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