誕生日だからって、特別何がある訳でもない。普段の平日のように起きて、仕事をして、帰って、寝る。(まぁ確かに会った人皆におめでとうと言われてプレゼントは貰ったが)
否、普段と少し違ったのはあの気に食わない黒を目にしなかったからだ。
それだけで幾分か健やかな誕生日だった。
そろそろ一日も終わる。静雄はテレビの電源を切り、部屋の電気を消した。微かな月明かりがぼんやりと部屋に光を送る。布団に入ろうと掛け布団と毛布を捲ったとき、窓の外で何かが動いている気がした。
静雄は窓の方を見遣った。人影、だった。
静雄はぎょっとして窓との距離を広げた。真っ暗な外でうごめく、人影。別に怖くはなかった。ただ酷く驚いただけだ。
どうやら人影は窓を開けようとしているらしい。
ガタン、ガタン、ガコン
外から何か細工をしているらしい。暗くて余りよく見えない。
遂にガチャン、と窓の施錠を解かれた。
静雄は身構える。こんな時間に静雄宅を、しかも窓からの侵入を測る輩はどうしたって普通じゃない。カラカラとガラスの窓がゆっくりと開けられた。
ぶわりと冷たい空気が部屋に充満する。それと一緒に香りがした。これは、




「ハッピーバースデー、シズちゃん」





薔薇だ。


静雄はぽかんとした顔で臨也を見つめた。
臨也は窓枠にしゃがみ込み、あの嫌らしい笑顔で静雄を見ている。手には真っ赤な薔薇の花束。
月明かりに照らされる男の姿は、さながら恋人を迎えに来たロミオだった。

臨也は身軽に静雄の部屋に入り込み、ジャケットのポケットから携帯を取り出して画面を見た。

「1月28日午後23時49分。うん。ちゃんと間に合ったね。」

はい、と臨也は大きな薔薇の花束を静雄に押し付けた。
驚きで声も出ない静雄は大人しく花束を受け取るしかなかった。

「な、ん…」
「ちゃんと年の数だよ」
「は?いやだから…」
「今日一日位シズちゃんに会わないことが俺なりのシズちゃんへの誕生日プレゼントだったんだけど、やっぱ駄目だね。俺が。」

クスクスと微かに笑って臨也は再び窓を開けた。風が吹く音が静雄の耳にも聞こえる。風のせいで赤い薔薇が可哀相な程花弁を散らせていた。
臨也は窓枠に足を置くと、おやすみと唇だけで呟いて静雄の家から去って行った。
後には月明かりで照らされながら冷たい風に晒される静雄だけが取り残された。
赤い頬にとって冷たい風は心地好かった。


嗚呼、やはり普段と何らわからない一日だ。






























静雄おめでとう
(110128)
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