過去捏造








お前、女かよ。髪なんか伸ばして気持ち悪ぃ。いつも泣いてるし。なよなよして。弱っちぃ奴。あっちいけ。ほら泣いた。行こうぜ。お前なんかと。誰が遊んでやるか。
幼い頃、俺は近所の子供達と遊んだ記憶がない。裕福な家庭に産まれたが両親は女の子が欲しかった。兄が二人いたがどちらも俺が物心つく頃にはいなかった。差ほど歳は離れていなかったのに。俺は両親の愛を一身に受けた。独りよがりの愛情だったが幼い俺にとってそれは紛れも無い幸せだった。ある日母は俺に女もののワンピースを着せた。母は喜んだ。父も喜んだ。俺は笑った。次の日も次の日も母は俺に女ものの服を着せた。気付いたら俺は髪も肩まで伸びていた。母は毎日毎日俺を膝に座らせて丁寧に俺の髪を梳かした。ミストレーネは可愛い子。愛しい愛しいママとパパの一人娘。可愛い可愛い女の子。俺は性別がどういうものか理解していなかった。自分は女なのか、そう思った。否俺の裸を見て泣き崩れる両親を見て自分は表面だけでも女でなくてはならないのだと思ったのだ。
俺は遊びたい盛りの時期になった。両親は女の子はお家でお人形で遊びなさいと言ったがどうしても俺は外で他人と触れ合いたかった。しかし一歩ハリボテの家から出ると俺を待っていたのは誹謗中傷だった。近所では噂になっていた。あの家は息子に女の格好をさせる。上の二人の子供は養子に出したらしい。なんでも女になることを拒んだから。イかれてる。あの家族はイかれてる。
俺は泣いた。指を指され、怒鳴られ、小石を投げつけられた。それでも俺は両親を恨まなかった。両親はどこまでも角砂糖のように優しかった。それから俺は有名な進学校である小学校に入った。そこには俺が男だと知る者は誰ひとりいなかった。俺は小学校でも女ものの服を着て女のように振る舞って生活した。五年生のとき段々と体つきが変化していく中で少しばかり周りが違和感を覚え始めた。それでも奴らは発育は人それぞれだと俺を庇った。誰ひとり俺が男だと気付く者はいなかった。俺は反吐がでた。どの世界に射精する女がいるというのだ。俺は皮肉なことに早熟だった。
そんなある日ある男が俺に告白してきた。好きです。同じクラスの男だった。俺は今まで何度も告白された経験があるがその時俺は今までに感じたことのない感情を抱いていた。そうだ。あの時確かに俺は欲情していた。エスカに。
エスカはクラスでも一匹狼を気取った奴だった。それでもサッカーが上手くて頭もよくて嫌う人間は少なかったが少しばかり嫉妬している人間がいたのも事実だ。エスカは転校すると言った。転校する前に告げたかったのだと真っ赤な顔で俯いていた。俺は笑って可愛らしい声で私も好きよと言ってやった。エスカはきょとんとして事態を把握していなかった。俺はキスしてやった。唇に熱い熱い確かな愛情を込めたキスを。
エスカは転校した。お別れ会はそれはそれは盛大だった。名門の王牙学園の初等部に行くのだという。次の日空席になっていたエスカの席を見て俺は産まれて初めて悲しくて泣いた。告白をしてキスまでしたのに俺達の間に生まれたのはただのむなしい空虚だけだった。
俺は王牙学園に進学することを決めた。髪はもう腰まで伸びていた。
王牙学園は全寮制の男子校だった。両親は泣いて俺を叱った。しかし殴ることはしなかった。最後まで角砂糖のように優しい両親だった。遂に進学することは許されなかったが、ヒビキ提督が俺のサッカーの才能に目をつけ入学を斡旋してくれた。髪は切らなかった。少なからず両親の愛情を形に残しておきたかったから。
入学式の日エスカは俺の顔をみて大層驚いていた。愕然とした顔で俺を見て何でどうしてと繰り返した。俺はどうしてだろうなと笑った。お前が好きだったから、一緒にいたかったからとは言ってやらなかった。エスカは俺が男だと信じられない様子だった。そりゃあそうだ。かつて告白してキスまでした相手が男だなんて人生の汚点だろう。
同じサッカー部に入ってバダップと共にスリートップになった頃にはエスカはとうに俺を好きだったことは忘れてしまっていたようだった。
しかし男子校で俺は浮いた。元々女顔で悪目立ちしていたしサッカーは一年生でレギュラーでFWだ。幼い頃のように誹謗中傷を受けることはなかったが変に目を付けられた。何度も襲われかけた。あの日も顔も名前も知らない先輩に無理矢理犯されそうになった。腹でも殴って逃げることは簡単だったが、余りに必死な様が滑稽だったのでギリギリまで抵抗しなかった。

「何してるんですか、先輩」

あの日はエスカがたまたま現れたのだ。エスカの声に悪漢はあわてふためき制服を脱がされかけた俺をそのままに逃げて行った。抵抗しろよ、と呆れたエスカの声がしたが、嗚呼その程度かと思った。もう俺はお前の中でその程度に成り下がってしまったのかと思った。
昔を思い出した。あれは俺のファーストキスだった。俺はエスカを押し倒して無理矢理キスをした。エスカは抵抗しなかった。まるでさっきの俺みたいに。俺は悪漢だった。キスをして堅苦しい制服の釦を外して首筋を貪った。エスカは、エスカはきっとあの時。
泣いていたのだと思う。





































(110109)
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