どうしてこうなったっけ、意識が朦朧とする頭で考える。他人の荒い息と唾液の味にくらくらする。静雄は必死に自分の肩を掴む腕に縋り付いた。少しでも口内を好き放題に弄る舌に意識を集中させたら、どうなるかわからない。
うっすらと目を開ける。涙の膜が張ってあり何度か瞬きすると視界がはっきりとした。
端正な顔の男が見える。いつもの人を馬鹿にした表情ではなく、随分と余裕がないように見えた。
そもそもどうしてこうなった
「明けましておめでとうシズちゃん」
初詣に行こうと言われ年を越した深夜に呼び出され神社に行った。「信仰なんてしてないけど一応ね」そう言って男は笑っていた。
人混みを掻き分けおさい銭をしてさっさと男の新宿のマンションに帰った。
そこで少し寝て、明け方起きてバラエティを二人で見ながら酒を飲んで…
「ねぇシズちゃん」
「秘め初めって知ってる?」
「シズちゃんは知らないだろうなぁ」
暗転。
そうだ、ソファで二人して酒飲んでて突然臨也に姫なんとかを知っているかと聞かれて答える間もなく押し倒された。
お互い相当酔ってたし俺も笑いながらふざけてるのだろうと思ってた。首筋を貪られて散々すき放題弄られてきた体は直ぐに反応する。
そこから変な雰囲気になって、酔ってたし気持ち良かったしもういいかなと思ってされるがままになってて…
「秘め初めってね、姫初めとも書くんだけど、夫婦が新年で最初にする性交のことなんだよね、ねぇシズちゃん、いいでしょ?」
柄にもなく捨てられた仔犬みたいに聞いてくるもんだから、確か、いいよ、と。そうだ。いいよと言って抱きしめたんだった。酔いとは本当に恐ろしい。
そこからずっとキスをしてた。それで今に至るのだ。
テレビはつけっぱなし、お笑い芸人が客席を笑わせていたが、そんなものは全く頭に入ってこない。
「っ…ふぅ…はぁっ…」
「ん…は……」
ちゅぱ、と水音がして唇が離れた。荒い息を整える間も与えられず直ぐにまたキスされる
着ていたニットとインナーを一緒にたくし上げられ胸の突起を摘み上げられた。
「ふぅっ…んぁっ…はっ…!」
思わず臨也の頭を掻き抱いて静雄は自分から舌を絡ませる。じんじんとした熱が腰に広がる。静雄は腰を揺らしながら足を臨也の腰に絡ませた
「ん…シズちゃ……」
「ふぁ…?」
唇を離され静雄は顔を赤くする臨也を不思議そうに見た
臨也はバツが悪そうに俯いて静雄の服を元に戻した
「…しねぇの?」
「いや…えっと…」
「嫌だったか?」
静雄は申し訳なさそうに足を臨也の腰から離そうとしたがそれは臨也が必死にやめてと言うものだからそのままにする。
「なんか…シズちゃんが変に素直だから…調子狂う…」
「お前もだろ」
「俺は普通だよ。むしろもう…なんていうかなぁ…」
「?」
臨也はぎゅうっと静雄を抱きしめて肩口に顔を埋めて大きく深呼吸をして尚も赤い顔で囁いた
「変な事口走りそうで怖い…」
静雄は呆気にとられ、あやすように臨也の背中を撫でた
「…どんなことだよ」
「えぇ…?」
「教えろよ」
臨也は拗ねたように唸ると静雄の顔を赤い瞳でじっと見つめる。いつもの饒舌が嘘のようだ。
「…知ってるでしょ」
「お前が俺のこと大好きだってこととか?」
「あーもう…五月蝿い黙って死んで」
「じゃあしないんだな、秘め初め」
恥ずかしそうに俯く臨也の耳元に静雄は掠れた声で囁いた。臨也はみるみるうちに真っ赤な顔で絶句して静雄を凝視した
「…する…」
「お前から誘ったんだろ?」
「するったら!」
臨也は酒の空き缶やらつまみが乱雑しているテーブルの上からリモコンを探しだしテレビの電源を切った。そして静雄の足からすり抜けて立ち上がり静雄の腕を引いて寝室へ足早に向かうと真っ黒なキングサイズのベットへ静雄を押し倒した。
焦れたようにキスをして、静雄を抱きしめる。
「こんな筈じゃなかったのに…!シズちゃんのせいだよ」
「俺かよ」
「シズちゃんが素直すぎるのがいけない。」
確かに普段なら抵抗するが、アルコールが入ってそんな思考はなくなっていた。それに嫌ではないのだ。臨也とセックスすることは。
サイドボードに置いてある時計を見たら昼の10時だった。
「…臨也くんよぉ」
「なに…」
「俺、昼は雑煮食いてぇ」
「色気ないなぁ…」
臨也は呆れたように笑うと静雄の服の中に手を忍び込ませた。
(110101)