昔々あるところに、ひとりの王子様がおりました。
それはそれは見目麗しい王子様は王様とお妃様に大切に育てられました。
しかしその王子様の美しさに嫉妬した悪魔が、王子様に永遠の眠りの呪いをかけてしまいました。

「運命の姫のキスで王子の呪いは解けるだろう」

王様とお妃様と王国の民は悲しみに明け暮れ姫が現れるのを待ちました。
しかし何年、何十年、何百年と時が経つも姫は現れませんでした。
王国は寂れ衰退し、残ったのは王子が眠る城だけでした。
王子は白いベルベットの上でその美しい姿を変えることなく、姫のキスを待っているのです。
いつまでも、いつまでも








「それを、どうして俺に話すんだ。」
「それはね、おとぎ話は必ずハッピーエンドにならないと完結しないからだよ。」

デリックは納得のいかないと言うような顔を臨也に向けた
目の前には、白い布が被されたベルベットがある。布が膨らんでいるところを見るとどうやら、誰かが寝ているらしい

「思い違いか?それ聞くとまるで俺が運命のお姫様みたいだぞ」
「そうだよデリック。君が」

彼の呪いを解くんだ

臨也は微笑んで白い布を取り払う。
風に舞う白い布の向こうに、横たわる男を見た
顔は、布を持つ男と瓜二つであった。

「…これは」
「コード"Beautiful Days"。津軽と同じプログラムのアップグレードみたいなものだよ」
「起動、してないのか」
「言ったでしょ?彼は姫のキスで目覚めるんだ。」

そうプログラムしたのだ。
デリックは忌ま忌まし気に創造主である臨也を見た。
臨也は肩をすくませ、部屋から出ていった

デリックはベルベットに腰かけ男の顔を覗き見た
見れば見るほどあの男に瓜二つだ。あの男がモデルの兄であるサイケデリックよりも大人びて凛々しい雰囲気だ
デリックは男の黒髪を撫でる。さらさらとした毛が指をすり抜けていく。そこから頬を撫でたが体温は感じられなかった
きっと起動すれば体温が生まれ動き喋るのだろうが、起動方法がキスとは臨也も趣味が悪い
王子の姿をした男は微動だにせず眠り続けている
デリックは溜息を吐いて部屋の中に誰もいないことを確認する。マスターである臨也の命令に反することはできないのだ
両手で体を支え、男の顔に自分の顔を近付ける
ふわりと薔薇の香りがした


「―……」
「…目、覚めたか」
「貴方は…」
「あ、えっと…デリック…デリックだ」
「デリック…さん。そうか、そうですか、貴方が……」

男は上半身を起き上がらせてデリックに微笑みかけた
デリックはその屈折のない笑顔に居心地悪そうに身じろいだが、男は変わらない笑顔でデリックの頬を愛おしそうに触れ、その指でデリックの薄桜色の唇を撫でた

「私の、お姫様」
「へ」

余りの突然の出来事にデリックは何のアクションも取ることができなかった
キスされていることに気付くまで、差ほど時間はかからなかった

「私を目覚めさせてくれてありがとう」
「…あ、あぁ…」
「貴方は本当に美しい…その桃色の瞳、天使の様な髪、女神の様な心…貴方のような人が私の運命の人で私は天にも昇る気持ちです」

デリックはつらつらと恥ずかしげもなく愛の言葉を囁かれ顔を真っ赤にして絶句した
いつもは口説く側の自分が何故こんな臭い台詞で戸惑わされなくてはならないのか。
デリックは未だに自分の頬を撫でる男の手を払いのけた

「っ…いい加減にしろ!」
「…お気に、召しませんでしたか」
「当たり前だ!何で俺が姫なんだよ!俺は臨也の野郎が起動しろっつうから仕方なくキスしただけで…!」

デリックは愛されることに馴れていなかった
モデルである池袋最強の男もそうだった。愛されることがどんなに幸せでどんなに恐ろしいことか。
男は困ったように笑った
サイケとも臨也とも違う種類の優しい、本当に優しい瞳だった

「デリックさん」
「………」
「私の名前は"Beautiful Days"、美しい日々です。日々也とお呼び下さい。…臨也が私をそう名付けた理由はわかりません。彼はとても解りにくい人間ですから。でも、私の運命の姫を貴方にしたのはきっと…私の名前に何か意味があるからではないかと思うのです」
「…意味?」
「そう、何か特別な意味が」

王子は立ち上がり指先から魔法の様に冠を出して自分の頭に乗せた
デリックの両手を取り包み込むように握り締めた日々也の顔は真剣なそれだった

「デリックさん」
「っ…え、と……」
「私は…貴方と幸せになりたい」

だって、おとぎ話はハッピーエンドでなくてはいけないでしょう?
そう言ってニコリと笑った日々也にデリックはどういう顔をしたらいいかわからなかったが、自分の手を握り締めるこの温もりだけは信じよう、そう思った。




























(101222)
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