津軽とデリ雄
デリ雄=夢雄です


おかあさんはあまいにおいがしてつぅはおかあさんがだいすきですやさしくなまえをよんでくれるこえもあたまをなでてくれるおおきなてもだきしめてくれるやさしいうでもつぅたちはおかあさんのぜんぶがだいすきです



母親なんかじゃない。
静雄はソファに座る自分の傍らで眠る自分にうりふたつの少年達にブランケットをかけてやり、二人のふわふわの金髪を撫でた。
自分はこの二人の母親ではない。まず根本的にこの二人の子供は人間ではないのだ。詳しくは知らない。二人の創造主である男はプログラムだと言っていた。広いインターネットの世界とこの現実世界を行き来する力をもつ人間とは異なる電脳プログラム。
託されたときは戸惑った。
何より自分は男だし子供の扱いは苦手だった。しかし男は優しく笑って「シズちゃんならできるよ」と言った。手渡されたのはまだ首も据わっていないふたりの幼児が入った籠だった。瓜二つの赤ん坊の顔に驚いて静雄が男に荒げた声を発したとき、ピンク色の毛布に包まれた赤ん坊が泣き出した。それに釣られ水色の毛布に包まれた赤ん坊も泣き出す。静雄が慌てているうちにろくな説明もせず男は黒いファーコートを翻しながら静雄の前から姿を消した
あれから三年が経った
あれ以来静雄は池袋の街中で折原臨也を見たことがない
結局ピンクの瞳の赤ん坊は夢雄、水色の瞳の赤ん坊は津軽と毛布に書いてあり静雄はずるずるとプログラム津軽と夢雄を育てることになってしまったのだ
ふたりはそれはそれはすくすくと成長した。
三歳となったふたりは語彙は増えたし性格も別れてきた。津軽は大人しく控えめで夢雄は活発で表情豊かだ。静雄は自分でもふたりの成長を嬉しく感じていると理解していた。
しかし、今日津軽が書いた絵に書いてあった

おかあさんはあまいにおいがしてつぅはおかあさんがだいすきですやさしくなまえをよんでくれるこえもあたまをなでてくれるおおきなてもだきしめてくれるやさしいうでもつぅたちはおかあさんのぜんぶがだいすきです

静雄はそこで我に返った
自分はふたりの母親などではない。
人間じゃないとか、男だからとかいう話以前の問題だ。
なら何故俺はこのふたりを育てているのだろう
それは臨也が押し付けてきたから。
だから、だから、だから
仕方がなく。
そんなことを思いながらふたりを育てる自分に、この子達の母親だと言える資格は、ない。

「しずお?」

声のした方を見ると、綺麗な空色の瞳が静雄を見上げていた

「…なんだ、起きたのか津軽」
「うん」

津軽は夢雄を起こさないようにそろりとブランケットから抜け出すと、座る静雄の膝の上にちょこんと乗っかった

「寒くないか?」

津軽は着物の上に青いグラデーションの入った羽織りを羽織っているだけの姿なので、静雄は津軽の頭を撫でながら尋ねたが津軽は頭を縦に降っただけだった

「どうした?」
「しずおは、つぅたちに、おかあさんっていわれるの、いやか?」

静雄は目を見開いた。
津軽は寂しそうに静雄の顔をじっと見つめていた。

「どうして、そう思うんだ?」
「つぅたちは、ひとのかんがえてることがわかるから、つぅたちは、いざやにつくられた、ぷろぐらむだから」

だからしずおのかんがえてることわかる
津軽は静雄の服を握りしめた。静雄は、津軽を抱きしめた。余り力を込めることはないが、強く強く。
その時横で夢雄が起きて、眼を擦っていた。すると夢雄はにこりと笑って静雄に抱き着いた

「しずおちゃん!」
「…夢…」
「俺たちは、いざやにしずおちゃんをよろしくって言われたんだ」

静雄は再び驚きに夢雄を凝視した。
夢雄はにこにこと笑いながら津軽を抱きしめる静雄の腕の中に入ってきた。津軽は夢雄の白スーツの端を握って、にこりと笑った

「だから俺たちのことは気にしなくていいんだ。俺たちがしずおちゃんの重荷になるのは俺たちのプログラムに反するから」
「おかあさんってつぅがかいちゃったから、しずおはぷれっしゃーになっちゃったんだよね」
「っ…ちが、違う!違うんだ、俺は…俺はお前らのお母さんだなんて…なる資格がない…だから…」

静雄は無垢なふたりの笑顔をみて、一気に目頭が熱くなるのを感じた。感情に身を任せてふたりの子供を抱きしめると、ふたりは苦しいよと言って笑った

「ごめん、ごめんな…!」
「なんで謝るんだよ」
「そうだよしずお、つぅたちはしずおを」



「幸せにする為に生まれたんだから」


静雄は振り返る。三年振りに聞く声に
男は赤い目を細めてただいまと笑った。津軽と夢雄はおかえりなさい!と返したが静雄は言葉がでない。信じられないという顔をして立ち上がり、その顔を見て臨也はシズちゃん変な顔!と変わらない憎らしい声を上げた。

「…どこから」
「鍵開いてたよ。」
「なんでっ…」
「仕事も漸く片付いたし」

津軽と夢雄の顔を確認すると臨也はふたりを抱き上げて大きくなったなぁと本当に幸せそうな顔で呟いた

「いい子にしてた?」

その顔に静雄ひぶわりと涙腺が緩んだ。
手で顔を隠す静雄に臨也は気付きふたりを抱え直し静雄の肩口に額を押し付けた

「大変だったでしょ。ごめんね、突然押し付けたりして」
「っ…なん、で……」
「このふたりに俺がいない間シズちゃんを任せるつもりだったんだけど逆に任す形になっちゃったねぇ」

臨也は泣いて赤くなっている静雄の頬にキスをして微笑んだ

「津軽と夢雄は君の子だよ。例え人間じゃなくても君が男でも君が否定しても、この子達の母親は君だ」
「…どうして、どうしてだよっ…なんで…」
「君に…愛することへの恐怖を払拭させたかったから。君が普通の人間と同じ、人を愛することができるようにしたかったから」

津軽と夢雄はきらきら光る鮮やかな瞳で静雄を見つめていた
臨也は困ったように笑い、シズちゃん。と優しい声音で言った

「シズちゃんがお母さんなら俺はお父さんだよ。」
「…は?」
「いざやがおとうさん?」
「やだ!いざやは優しくない!」
「夢それどういう意味?」
「お…い、臨也、それ、どういう意味か…」
「わかってるよ」

臨也の力強い声音に静雄は涙目を瞬かせた

「それで三年を埋められるとは思ってないけど、しないよりましでしょ?」











おかあさんはあまいにおいがしてつぅはおかあさんがだいすきですやさしくなまえをよんでくれるこえもあたまをなでてくれるおおきなてもだきしめてくれるやさしいうでもつぅたちはおかあさんのぜんぶがだいすきです
おとうさんもだいすきですしつこいしすぐなくしおかあさんをかなしませてばかりだけどつぅたちはおとうさんがつぅたちがだいすきなおかあさんをだいすきだってことをずぅっとまえからしっているからおとうさんもだいすきです



















(101203)
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