彼女は私の事を男と認識していないのではないか、と思う
彼女の家に居候させて貰い数ヶ月が経った
居候という身から家事の手伝いは勿論彼女の身の回りも差し支えない程度にはサポートしている
やり手に見えて私生活はかなり大雑把な彼女は料理はおろか洗濯もコインロッカー頼み
これではいけないと私の中の何かが動き、家事は今はほとんど私が担っている(彼女はいいと断るが彼女に任せるとろくな事がない)
それまではいい。
家事全般と朝の彼女の時計変わり、それくらいならば(女性の部屋に入るのは憚れるがもう馴れだ)私も彼女も何も問題はなかった
しかし、しかしだ

「瞳子さん」
「何」
「できれば服位は着てください」
「着てるじゃない」
「それは下着です」

彼女は最近、堂々と私の前で下着姿でいることが増えた
彼女が帰宅するのはいつも私が寝るばかりになった時刻
私が夕飯を作る間に彼女が風呂に入るというのは決まったサイクルだった
以前は風呂上がりなどに下着姿の彼女と鉢合わせてしまうと、ごめんなさいと言ってタンクトップにハーフパンツを着てからリビングに来ていたが、今ではキャミソールに下は下着のみという恰好で部屋の中を徘徊している
自分の家なのだからどんな恰好をしてもいいと思うが、そんなあられもない姿で私の周りをうろうろしたり、豪快に胡座をかいてビールを煽ったり、ソファーでごろ寝をしながらゲームメイクをしているのを見ると何とも目をつむりたくなる

「今日のご飯何?」
「秋刀魚です」

瞳子さんはキッチンに立つ私を後ろから覗き込み、冷蔵庫へ向かってビールを取り出した
それからダイニングテーブルにあったリモコンを手に取りソファーに座る
テレビをつけるとお笑い芸人が騒ぐバラエティー番組とニュース位しかやっていなかった
彼女はバラエティー番組にチャンネルを落ち着かせてビールのプルタブに手をかける。空気が入る音がして彼女はそれを一気に仰いだ
秋刀魚が焼けて、味噌汁も温まると私は茶碗によそっていく
大根おろしを冷蔵庫からとりだして秋刀魚と一緒に盛りつけた

「瞳子さん」
「ん」

彼女は立ち上がり既に空になっていた缶を持ってダイニングテーブルに着いた
彼女の前へ料理を運ぶ
これも決まったサイクル

「いただきます」
「召し上がれ」

彼女は少し前屈みになって食べる癖がある
外で食べる際は気にしてしゃんとした姿勢で食べているが、家に帰りくつろぐとこうなる
それによってキャミソールの中の女性特有の、そう、下着、が丸見えになってしまい、私は就寝の挨拶を伝えてリビングから出ていく

「治君」
「…はい」

彼女が呼んだ
足が止まり、リビングのドアを開けたまま彼女の丸まった背中を見る

「明日はお休みよね」
「はい」
「ビール、注いでくれない?」

彼女は先程空にした空き缶を手に持って軽く振った
私はリビングのドアを閉めて、冷蔵庫の中で冷やされたビールとグラスを取って、テーブルを挟んで彼女の前に座った
すると彼女はふふ、と笑って私の頭を撫でてきた
私はやっぱり男として見られていない
赤くなる顔を彼女から逸らしながら、そう思った





























(100902)
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